記念小説
□貴方だけを
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「海ってなんでこんなにもキレイなんスかねぇ」
わざわざ前の椅子を大股で後ろ向きに座って、迷惑なことに人の机に頬杖を付いて雑誌を捲る黄瀬がぽつりと呟いた。
「黄瀬くんにも、何かを綺麗と思う心があったんですね」
さも本当にビックリしたように、頬杖を付かれた机の主、黒子が思わず言葉を零した。
「ちょっ!黒子っちヒドい!!」
黄瀬は、例えばぁ、と例を出そうとし始めた。至極迷惑極まりないので、大いにやめて頂きたい。
黒子の頭はそれだけだった。
「あっ!黒子っちの瞳や、流れるようにパスするその指先が、一番キレイっス!」
「…………」
呆れを通り越して何も湧いてこない。ああ、でも黄瀬って本当に馬鹿なんだなぁとは思ったけど。
「ねぇ黄瀬くん」
「なんスか?黒子っち」
「海が青い理由、知っていますか?」
兎に角別の話題だ、と思って咄嗟に出た、うんちく話を話す。
黄瀬は、予想通り知らないと首を縦に振った。
「太陽の光には、実は7色の光が含まれていて、雨などが降ると光の屈折が変わって虹が出来ます」
黄瀬は頭を傾げた。
「虹は6色っスよ?」
「実際は7色だと言われています。青に見える一部が、紫なのですが、人間の目には見えにくいそうです」
黄瀬はほへーと間抜け顔で理解した。
「ですが海は、太陽の7つの光ほとんどを吸収してしまうんです」
いつだったか、偶々読んだ本に書いてあったうんちく話。
「ほとんど?」
「はい。7つの光の中で唯一、吸収出来ない色があります」
黄瀬は興味深げに先を促した。
「それが青色です。青色の光は吸収されず、反射して海が青く見えるそうですよ」
ほー!と黄瀬が間抜けな声を上げたが、どうやらその話に素直に感動しているようだ。
「何か凄いっスね!あれ、でもすっごいキレイなところは、7色の海とかってあるっスよね?」
「それは海水に含まれるプランクトンの量が関係しているようです」
ふむふむ、と、頭がよくなりましたと言いたげな顔に、思わず苦笑が零れた。
あ!と、黄瀬が途端に大声を上げる。
「まるで黒子っちと青峰っちっスね!」
…
…は?
黒子としたことが、一瞬呆けてしまった自分を心の中で叱咤する。
すると、黄瀬の携帯がいきなり着信を告げた。どうやら仕事に来いとのマネージャーからの連絡だったらしい。
黄瀬はさっさと雑誌を片して、簡単な挨拶で教室を出て行ってしまった。
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