記念小説
□愛しき貴女に祝福を
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「夢を見たのよ」
「夢?」
そう、と優しく微笑んだシェリルが、小さく頷いた。
「私とアルトがひとつ屋根の下で共に暮らして、子供がいる夢」
きっと私とアルトの子供なんだからとびっきりの美人さんね。と言うシェリルの頭を優しく撫でる。
目を細めて気持ちよさそうにするその姿は、気高き猫のようだ。
「おかしいわよね、こんな夢」
「何で?」
問えば、シェリルは少し悲しそうに微笑んで。
「私は『銀河の妖精 シェリル・ノーム』。アルトはSMSエースパイロットで元早乙女一門跡取り」
これってすごいわよね。とシェリルは言う。
「私が結婚ってだけでスキャンダルなのにそのお相手があの『桜姫』ってんだから」
クスクス、と笑うシェリルはどこかあどけない。
「…私は『銀河の妖精』って呼ばれるのが嫌だったの」
シェリルの告白に、アルトは目を瞬かせる。
そんなアルトと目が合って、シェリルは眉を寄せた。
「信じてないって顔ね」
「…そりゃね」
肩を竦めてやれやれと言うシェリルに、どうして嫌だったのかを問う。
「だって私は私だもの。妖精じゃない。どこかのラジオに出た時初めて知ったけど、その時からあまり好きじゃなかったのよね」
私は私なのよ、とシェリルは言う。
その横顔はどこか切なくて。
思わずその体を引き寄せた。
「お前はお前だよ。シェリル・ノーム以外の何者でもない。例え何が起きても…」
優しく、そっとシェリルのお腹の上に手を乗せて。
「子供が産まれても」
ギュッ、と力強く、だけどお腹の中の子に響かないように抱き締める。
「…うん」
「それに俺がいる。お前がお前でいなくなったら必ず俺が戻してやるさ」
だから心配すんなと、力強い腕と共に伝えた。
肩が湿ったような気がするのはきっとシェリルが涙を流しているからだろう。
小さな肩は小刻みに揺れ、ヒックヒックと嗚咽が聞こえてきた。
(愛しいのその顔に何度も愛情のキスと祝詞を捧げよう)
――Happy Birthday Sheryl Nome!