番外編
□『龍緒』
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赤く赤く、染まる大地
「たとえ誰かをキズ付けてもやらなければならない事もある」
そう言いながら、彼女は俯いたまま。
「キズ付けた事に“痛み”を知ってはいけない」
それは、決して、と言うこと。
いつも履いているショートブーツも赤く点々と張り付いている。
「私は……“ボス”、だから」
彼女が緩く握る拳銃から硝煙が立ち込めて、近くにいる自身の鼻孔をつつく。
「…ハヤテ」
彼女――ハヤテの背中は、そう言いながらも悲しそうに。
元々細く小さい肢体をさらに小さく見せた。
「“ボス”…だから」
まるで自分に言い聞かせるように。
――でもハヤテ、
背中を向けた話しかけた語るように。
――そう言うハヤテが一番納得してないような顔してるって、
ポタリと、雫石が赤い地面へと落ちる。
雫石で視界を曇らす余裕など、私たちにはないと、そう言ったのは彼女自身なのに。
――知ってた?
ハヤテの足下には、かつてハヤテの懐刀と言われ、何よりもハヤテが信頼した、彼が横たわっている。
彼自身、ハヤテを愛し、全てを捧げてきた。
――ハヤテを慰め助けられるのは、僕じゃない、貴方だけだったのに
ハヤテが、戸惑いながらも引き金を引いた。
その瞬間、僅かに悲しそうに微笑んだ貴方は今やもう冷たく。
地面を赤く染め上げたソレは赤黒く固まっていた。
そして彼女は呼ぶのだ。
愛しげに、美しい悲しみを。
自身で引き金を引いた彼の名を――
「龍緒」