novel*鋼錬

□今宵、月が見えずとも
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重たそうな灰色の雲が空一面を覆い尽くしている。今にも雨が降り出しそうだ。

雨はいつも自分を無能にするなどと舐められたことを色んな人に誤認されている。
確かに自分の錬金術は大気との摩擦によって繰り出される。
だから空気は乾燥していた方がやりやすい。
だからといって雨の日、決して自分が無能という訳ではない。
晴れの日よりも少しばかり勝手が悪いだけだ。

だから、皆自分は雨が嫌いだと思っているのだろう。

だが、自分は雨は好きだった。

服が水分を吸収して体に纏わり付くのはいつも嫌だったし、自分の想い人の機械鎧の接合部が痛むらいしいから正直あまり好ましくない。
だが、地面にこびり付いた血を流すには雨が一番だし、己が流した涙を雨に隠すこともできる。
それに、そんな暗がりの中で見る彼の光を失わない金の瞳と髪を雨の中で見るのも好きなのだ。

だから雨は嫌いじゃない。


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