バサラ小説

□叶わないけど想っていたから…
1ページ/5ページ

叶わないなら…始めから望まなければいいのだ。



だって望んで望んで結局手に入れられないのなら…期待した分打ちのめされるでしょ?



だから…うん








自分の右隣にいる人物を視線だけ動かしてチラリと見た。
左頬に走る傷、寄っている眉間の皺。
いつもどうりの彼だ。
小さくため息をついた。
いつからだろうか…彼を見るたびに胸が締めつけられるような苦しみを覚えたのは。
答えはとうに出ている…だが自分はそれを否定したかった。
それに自分がそれを認めたとしても叶うはずなどない。

(まさかこの俺様が男に…ねぇ)

まいったなぁ…と空を仰ぎ見るが白い雲が浮かぶばかりで何もない。
視線を下ろせば楽しそうに力試しをしている蒼に紅。
いい加減にバテテもおかしくないくらい長い時間雷と炎を散らしている。

(よくもまぁやるねぇ…)

ただ見ているだけの自分と彼。
自分は最早飽きているのだが彼の方は表情も変えずに主を見ている。

(そんなに熱心に見ちゃってまぁ…)

なんだか嫉妬じみているなと思い馬鹿馬鹿しいなと頭をカリカリかいた。
なんともいえない心持ちになり確かまだ洗濯してなかったっけ?と本来は自分がやるべきではない仕事だが最早慣れてしまったソレに片付けにいこうと立ち上がる。

(何かしてないと変なことばっかり頭に浮かぶし…)

それになんだかいたたまれないしと歩き出そうとすれば後ろから低い声で呼び止められた。
振り替えれば傍らにあった湯飲みを持って傾けている。

(あぁ…お茶のおかわりね)

なんでこう自分の体は動くようになってるんだろうと湯飲みを受け取る。
台所に向かい湯飲みにお茶をいれ彼の傍らに置いてから洗濯をしに行こうとすれば今度は腕を取られた。

「おい」
「なに?」

視線は未だ主の方に向けられていた。
お茶の他に何か欲しいものでもあるのか…。
茶菓子なんてこの人食べるわけないし。
というかおいって何よおいって…俺はあんたの奥さんでもなんでもないっつーの。
何も言わない彼にだから何さと聞けばここにいろと言われた。

「…は?」
「だからここにいろと言ったんだが…聞こえなかったのか?」
「なんで?」
「別になんでもいいだろう」
「えーと…」

なかなか腕を離さないので仕方なく腰を下ろせば解放された。

(…何なんだ?)

今度は顔を向けて彼を見るが彼は相変わらず前を見ている。

 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ