☆龍華アビスonly短編小説☆
□七夕
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宿屋の一室、ジェイドの部屋。
本来一人部屋のこの部屋に、今二人の人物がいた。
一人は、もともとこの部屋に泊まったジェイド。もう一人は、つい先ほどこの部屋に訪れたルーク。
二人は誰もが認める恋仲で、いつもは同じ部屋に二人で泊まっていたのだが、最近はジェイドが仕事で忙しいとの事で部屋を別々にしていた。
最初は渋々ながらも了承していたルークだったのだが、そんな日が何日も続き、とうとう耐えられなくなって今日、ジェイドの部屋に押しかけてきたのだ。
突然押しかけたにも関わらずジェイドは迎え入れてくれたのだが、適当に寛ぐ様にルークに告げて、自分は椅子に座り机に向かってしまった。
仕方なく、ルークはジェイドのベッドに体育座り状態でジェイドの後ろ姿を見つめていた。
しかし、その沈黙がしばらく続いては流石のルークも耐えられず、遠慮がちに口を開いた。
「…なぁ、ジェイド…」
「何ですか?」
こちらを振り返らずに返される言葉。
ルークは少し寂しく思いながらも言葉を続けた。
「その、まだ仕事、終わんねぇのか?」
「そうですね…まだ暫く掛かります。少なくとも朝まではかかりますね」
ジェイドの声は、邪魔をするな。と言っている様に聞こえて、ルークはまた黙ってしまった。
俺はジェイドの機嫌を損ねる様な事をしただろうか。それとも、今まさに機嫌を損ねている所なのだろうか。それとも…俺と付き合ってくれているのは、ただの気まぐれなんだろうか…。
ルークの頭の中で、そんな考えがずっと、絶え間なくループしていた。
そんなルークの様子を、ジェイドはルークに気付かれない様に見ていた。
一度小さくため息を吐けば、ルークは呆れられたと勘違いしたのだろう。ビクッと不安げに肩を揺らしていた。
(やれやれ…これ以上は流石に可哀想ですかね?)
ジェイドは内心苦笑を浮かべながら、静かにルークの方へと体を向けた。
すると、ルークはすぐにジェイドへ不安そうな瞳を向けた。何かを言いたそうに口を開くが、言い出せないのかすぐに閉じ、うつむいてしまう。
その様子が、ジェイドには愛しくてしかたがない。
「…ルーク、七夕は知っていますか?」
「…七夕……?」
ジェイドの突然の質問に、ルークは不安そうな表情のまま首をかしげた。どうやらルークは七夕を知らないらしい。
「簡単に説明してあげますよ」
ジェイドは普段通りの笑顔を浮かべ、ルークの隣へと腰を降ろした。