☆龍華アビスonly短編小説☆
□静かな時
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「久々にいい眺めが見たいな」
旅の途中でルークが呟いた言葉がきっかけで、一行は海が見える場所へ向かう事にした。
アルビオールで行けばすぐに着く距離だったが、ガイの提案により、徒歩で向かう事となった。
「あーあー。アルビオールならひとっとびなのになぁ」
けだるそうにアニスが頭の後ろで手を組み溜め息をつくと、ガイは苦笑いを浮かべながらその呟きに答える。
「まあそう言うな。この辺りはルークやティアにとって思い出の場所なんだ。たまにはいいだろ?」
先頭を歩く二人を見遣りながらそう言われると、アニスも頷かざるをえなかった。
「ルーク覚えてる?あなたここで逃げ腰で戦ったのよ」
「し、しょうがないだろ!?実戦なんて初めてだったんだ」
そっぽを向いて頭を掻くルークと、クスクス笑うティア。何ともほほえましい光景である。
ここはタタル渓谷。ティアとルークの始まりの場所。
「おや?あそこから海が見えるみたいですねぇ」
最後尾を歩いていたジェイドが先を見て言う。
それに気付いて一同はジェイドと同じ方向に顔を向けた。
「ちょうどいいですわ。あそこにはお花畑がありますの。少し昼食などいかがですか?」
「ミュウもお腹空いたですの!賛成ですの!」
ナタリアの提案に、ミュウはキャッキャと跳びはねる。
「うし!じゃあメシにするか!」
ルークの一言で一斉に花畑に向かい走り出す。
全力で。
「よし、今日の食事当番はアニスだな」
「ブーブー!仕方ないなぁ」
最後に花畑に到着したアニスは不満そうにしながらも料理の準備を始める。
各々が自由に行動を始めた頃、ルークがティアに声をかけた。
「…ティア、ちょっといいか?」
「え?いいけど…どうしたの?」
キョトンとした様子でティアが尋ねると、ルークは照れたように頬を描きながら、海がよく見渡せる位置にティアを誘導した。
海を眺めながら、二人で静かに腰をおろす。
少しの沈黙。
後方で仲間が騒いでいるのを聞きながら、ルークはゆっくり口を開いた。
「俺、皆や…ティアに会えて、本当に良かった。もしティアに会わなかったら、俺、変われなかったと思う」
真剣な表情を浮かべるルークの話を、ティアは静かに聞いていた。
「それで…その……ティアに、お願いがあるんだ」
「…何?」
突然しどろもどろなったルークに疑問を感じながら、ティアは首を傾げた。
「これからも…ずっとずっと傍にいてほしいんだ」
「…!」
真っすぐなルークの眼差しに、ティアは思わず目を反らした。鼓動が早くなり、顔が熱を帯びているのが分かった。
「い、嫌なら別にいいんだ」
拒否されたと思い、ルークは慌てて背中を向ける。
その背中に、ふと少しの重みを感じた。
ティアはルークの背中に寄り掛かりながら呟く。
「馬鹿ね。誰が嫌だなんて言ったのよ」
少しふて腐れたようなティアの声に、ルークは安心したように微笑み、小さくお礼を言った。
『みんなー!お昼出来たよー!!』
アニスの声が響き渡る。
二人は顔を見合わせ、照れ臭そうに微笑むと、皆の元へ向かうのだった。