07/09の日記
23:16
「2人きりの独りぼっち」
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襲いくる様な朝焼けの空。蒼に映えるフウセンカズラの潔癖さ。砂丘を歩く駱駝の長い睫毛。漆黒に散る蝶の白さ。
鮮烈や相反する静けさが網膜を通り越して警鐘を鳴らす。危惧すべき音。その癖、触れれば壊れそうな危うさが満ちていた。その不安定さは見るものを無意識の内に惹き付けてしまう。
(蜜が堕ちる、)
自我の境界線が無くなり、空に溶けていく。
(・・・、只の錯覚だ)
白昼夢の後の様に霞んだ思考を頭を振ることで正常な思考へと切り替えていく。気だるいのは境界線に近付き過ぎた弊害だ。
「聖」
名前を呼ぶ声が震えていないことに少なからず安堵する。
「聖、」
返事は帰って来ない。最も最初から期待はしていなかったので半ば只の独自だ。
絵の具の匂いが充満する部屋の中、聖は黙々とキャンパスに絵筆を走らせている。11号のサイズのキャンバスに綺麗な青みを帯びた白が塗られていく。
掛けられた声にも、スツールの足を摩る音にも気が付かない。完全に自らの世界へと閉じ篭ってしまっている。こうなると区切りがつくか、強引に絵筆を取り上げる迄戻ってこない。
「美術にのめり込む人間には二種類あるんだってさ。何か美術に代われるモノさえ有れば忘れることが出来る人間と、何を切り捨てても描かずにはいられない人間」
お前は後者だ、
呟いた声は彼の閉じられた耳に阻まれて消えた。
(美術が無ければ生きていけない)
それは、俺がいなくても生きていける、と同じ意味だよ
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