Gift

□Fragment
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「早瀬ー、ちょっと来い」





冬休みも終わり、またいつも通りの学校生活が始まった。
今日1日の授業も乗り切った放課後。生徒達の雑談でざわめいている1−1の教室に顔を出したのは帰りのSHLが終了すると同時に教室から姿を消した筈の担任、ナッチこと日高凪沙。
片手でドアを押さえ、壁に凭れかかったまま俺の名前(もしかすると葎かも)を呼ぶナッチはとてもじゃないけど教師には見えない。






「ナッチー、早瀬ってクラスに2人いるぜ?」





斜めに傾けさせた椅子に座った竜呀が足を揺らしながら言った。
今日はカラコンを付けていないので瞳の色は元々の黒色だ。日本人の中でも珍しいぐらい黒い竜呀の瞳はとても綺麗だと思う。
俺も葎も色素が薄いからかも知れないけど。






不安定な形で止まっている椅子の背を引きたい衝動に駆られたけれど、もし、それで竜呀が体勢を立て直すことが出来ないまま後ろに倒れてしまったら危険なので止めておく。
それに、こいつが片手に持っている漫画は俺のだしね。
まだ買ったばっかりの漫画なのに、折れたり破れたりするのは嫌だ。






「暦の方だよ。早瀬暦」




「えー、何ー?」




呼ばれているのはやっぱり俺だったみたい。
自分には関係無いと知った葎はもう既に基との話を再開させちゃったし。





「おぃ、聞いてんのか?」




「聞いてる、聞いてる。だから用は何ー?」




つれない葎を眺めていると再度ナッチから声をかけられた。
案外せっかちだよね、ナッチって。
せっかちな男は嫌われるよ。



いらないお節介でしかないことを考えながらナッチを見たら呆れた顔をしていた。




「お前、先生には敬語使いなさい。敬語。・・・早瀬、今日日直だったよな」




「そうだけど・・・」




「なら、ちょっと俺の手伝いしろー」




「えー!」




もう日誌書いて出したんだから俺の仕事終わった筈でしょ。
放課後に先生の手伝いするなんて日直の仕事じゃないじゃん。




「文句言うな、内申下げるぞ」




大人って狡い・・・。
周りを見渡してみたら困った様に笑う基と面白がってる竜呀。
葎なんて俺の方を向いてさえいない。





お兄さん、君のことが心配で行きたくないってのに当の葎はわかってるんだかいないんだか・・・。





渋々、椅子代わりに使用してた机から立ち上がると竜呀が耳打ちしてきた。





「俺、今日葎と帰ろうか?」
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