Poke

□神に許されぬ気持ち
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タッタッタッ…
と一定のリズムで目的地まで早足に駆けていく。

その最中、遠目に目的の人物を発見すると彼は走るスピードを上げてその人物に駆け寄り、少し息を切らしながら名を呼ぶ。


「ゲンさん!」

「サトシ君、どうしたんだい?」


息を切らして走り寄ってくるもんだから、何かあったのかと心配するがサトシの笑顔を見て特に心配する事はないのだと心の中で安心した。

「何してたんですか?」

「ルカリオの…インファイトの特訓だよ」

「インファイト…ですか?」


サトシは小首を傾げて何で?と言わんばかりな表情を見せる。


(やっぱりサトシは可愛いなぁ)


若干オヤジ臭が漂ってきそうな(心の)発言に顔も油断しきって緩んでいそうなので、一旦サトシに背を向けて顔を数回叩いた後、何事もなかったかのようにクルっとサトシに向き直ると会話を続けた。


「ああ、インファイトは格闘タイプ最大の攻撃だが、放つと同時に防御、特防まで下がってしまう厄介な技でね」



サトシはルカリオのインファイトを想像しながらなるほどーと呟いている。
精一杯の想像力を使い一生懸命に思い出していると思われるだろうサトシを見てクスッと微笑がこぼれる。


「まぁとにかく修行は怠れないってコトだね」


サトシはゲンのまとめた答えに流石ですっ!
と目を輝かせながらゲンを一直線に見つめる。
その一方、ゲンは嬉しい反面複雑なモヤモヤした気分になる。








(この子は……本当の私を、知らない)







もし、自分の気持ちを……
この子に対する自分の気持ちを打ち明けてしまえば……

その尊敬してくれているキラキラと輝いた綺麗な瞳は、濁った軽蔑の眼差しに変わるのだろうか……



ソレが怖くて、人当たりがよく優しい人を演じているだけ。

嫌われたくないから。

離れてほしくないから。






(私は……良い大人なんかじゃない)












「………ゲンさん?」


いつの間にか考え事に浸っていた事に気付きハッと顔を上げて彼を見れば、何時ものような太陽のような笑顔ではなくどこか不安げな表情……例えるなら、空一面に濃い雲がかかったようで。


その不安げな表情に自分が想像した軽蔑の眼差しが重なってしまい、ソレを見たくなくて衝動のままに幼い彼の体を抱き寄せる。

サトシは、わっ!?と叫んで顔を真っ赤に染めるが抵抗しようとはしなかった。
抱き合うのは何時ものコトだからなんの不思議もないのだが、今はゲンの抱き締める腕の力が強い事に気付き抵抗もしなければ何も言わない。

ただ、静かにゲンが口を開くのを待っていた。










どれだけの時間抱き合っていたかわからないが、不意にゲンが口を開いた。


「………サトシは…私をどう思う……?」


『サトシ』といきなり名前を呼び捨てで呼ばれドキリと反応するが、口を開いたゲンの声は微かに悲しさのトーンが混じっている。

ゲンのこんなに弱々しい所は見たことがなくてサトシは困惑するが、今、自分の答えでゲンの気持ちが左右されるのだと感じ、普段使わない頭をフル回転させて何を言えばいいのか。
何を言えば勇気づけられるのか。

等と、あれこれ考えていた途端、やはり普段使わない頭を使うのには限界が訪れたのか思考がヒートして、考えていた事はキレイサッパリなくなり頭が真っ白になった。

ヤバイ!とサトシは焦りに焦って手を空中でワタワタとさせれば、今までサトシの肩に顔を埋めていたゲンがクスクスと笑いだす。


「ゲ、ゲンさんっ///!!」

「ご、ごめんよ……クッ…クスクス……」

「むぅ〜〜――っ///!!」


ぷくーっと膨れるサトシにゲンは笑っては不味いと口元を押さえ笑いを堪えるが、手の隙間から空気が漏れている所為で笑っているのは簡単にサトシにばれていた。



ゲンは一通り笑った後、拗ねてそっぽを向いているサトシの頭をくしゃりと撫でてやれば照れたようにちらりと目線だけゲンに向ける。


「…………サトシ……私がどういう人間にみえる………?」




しつこいようでごめんね。


と微笑みながら付け足せば、先程は混乱して答えに迷っていたサトシが今度は即座に答えを返した。


「ゲンさんは…強くて、かっこよくて………何より、優しいです」


(……やはり、な…)


まるでその答えを想像していたかのようにフッと笑い目を閉じた。
しかし、付け足されたサトシの答えに目を剥くことになる。






「でも!ゲンさんはゲンさんだから………例えどんな人でも、大好きには変わらないですっ」


「…………ぇ………」


「…さっきからゲンさん……とっても痛そうな顔してるから………でも、笑うと痛いの吹っ飛んじゃうらしいですよ!!」









だから、笑ってください!


と無垢で太陽のような笑顔を向けるサトシ。


…まるで天使のようだ、と呟けば、はぇ?と気の抜けた声が返ってくる。


(……ああ…だからこの子は…)



汚れを知らない綺麗な瞳。
全てを包み込み、浄化する心。



(今の言葉で、私がどれほど救われたか……わかっていないんだろうな………)






「…サトシ……ありがとう」

「えへへーゲンさん大好きですっ!」



嬉しそうに飛び付いてくるサトシとサトシの言葉を受けとめる。



……この子に大好きと言われる程の資格を私は持ち合わせていないけれど……

せめて、今だけ、気持ちを伝えるくらいは許されるだろうか……









「私も……愛しているよ」









『好き』では足りない『愛している』気持ちを……君は受けとめてくれるかい…?




















君の瞳に、護りたいモノを見つけた。


















END


ルカリオは波動の修行の二人の付近におらず、ピカチュウはポケモンセンターに預けてきた設定のため不在なのでした。




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