晴嵐-seiran-
□白蛇A 懐かしい再会
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夜。島自体が眠ってしまったかのような静寂に、すこしの懐かしさと、アオタケの住人との生活の騒がしさを感じる。
「ハイジや走は元気、かな・・・。そういえば一回も連絡入れてないな」
ぽつり、とヒトリゴト。寝付けそうにないので携帯をいじってみる。ここに来てからの数日間、一度も開かれなかった携帯にはハイジやスギさんからのメールが大量に来ていた。
もう着いたの、元気にしてるか、連絡ないけど大丈夫?というどちらかというとこっちの心配をしている言葉ばかりでどうしようもなく嬉しくなる。
と、すっかり目も冴えてしばらく寝付けそうにないなぁと考えていたときに、どこか近くの部屋から電話の音がする。
こんな夜更けに誰だ、と考えていたがなんとなく出る気にはなれない。しばらくすればあきらめるだろう、と思っていたら、がちゃりと受話器をとる音がした。
荒太だろうか?話し声が聞こえてくる。
行く気はなかったが、なんだか気になったので緩慢な動きで布団から出る。
肌蹴た浴衣を調え、障子を開けて夏だが少しひんやりとした廊下を歩く。話し声はまだ続いているようだ。
「かまわないよ。あれのことは僕もちょっと気になる。明日、また浜で・・・・・・そうだった」
やっぱり荒太だ。明日・・・今日か。浜で、って何だろうと思いつつ電話を切った荒太に声をかける。
「荒太?」
「・・・琴葉?」
「そう。こんな時間に電話?」
「うん・・・昼に会った悟史君だけど、あれを見たらしくて。光市君が海にいて心配だ、って言ってかけてきたんだよ」
「あれが・・・。今になって、か」
「多分、誰かが演(や)っているんだとおもう。」
「問題は誰か、でしょう?」
「うん・・・そうだね。ところで浜に行くんだけど、琴葉も来るかい」
嫌な空気を断ち切ろうと、荒太がわざと明るい口調で言う。少し笑いつつ、
「・・・午前中なら、行かせてもらおうかな」
と返す。荒太は少し安心したように笑い、ありがとうと言った。
「じゃあ、おやすみ荒太」
「ちょっと待って」
ようやく少しやってきた眠気に身を任せて眠りたくて布団に帰ろうとしたら、荒太に呼び止められた。
「?」
「人がいると、できないし・・・」
人がいるとできないことって何ですか?
「鱗。琴葉、綺麗だって言ってくれたでしょう?」
「うろこ・・・?でも、今取る気?」
不純なことを考えてごめんなさい。
「あげるのは琴葉だけだよ?秘密にしてね」
「・・・了解」
荒太が楽しそうに言うので、私も楽しくなってくる。荒太は首筋に手をあてて、少し顔を顰める。・・・痛いならいいのに。
「はい、取れた」
「ありがとう。・・・きれいないろね。オパールみたい」
「うん、ありがと。・・・兄さんはそんなことは言ってくれなかったから、ね」
「大丈夫。私以外にも荒太の鱗が綺麗、って言う人はいる」
「・・・本当にありがとう、琴葉」
荒太が微笑む。私は少し紅色の滲んだ鱗を壊してしまわないように、薬を入れるために持ってきたケースの予備のに鱗を入れる。
からり、と小さく振れば、月明かりに照らされた鱗が綺麗に輝く。