晴嵐-seiran-

□白蛇@ 島に帰る
2ページ/3ページ

日があけた。今日大学の講義はほぼないので、武道場も空いているようだ。許可をもらい、中に入る。
ボストンバッグから衣装や道具を取り出し、更衣室で着替える。久々の一人での着付けに少し戸惑う。

「“仮面なら金色の瞳は見えない 耐え難い空白の時を超え 今夢から目醒めたまえ”」

本来は、ひっそりとした伴奏もつくが、今日は仕方がない。この歌を詠むのも私じゃないが、なんとなく雰囲気が出したかった。

「“白銀の扇は闇を切り裂き あれの・・・・・・”」

「琴葉?」

「ハイジ?」

扇を持った手が不自然に止まる。仮面をつけていなくて良かった。

「何でこんなところに?・・・それに、その服」

「まあ色々あって。夏に故郷である祭で舞わなきゃいけなくなったんだ」

「へえ。どんな内容なんだ?」

「“あれ”を遠ざけるためのうたとまいだよ」

「あれ、って・・・?」

「名前を言うのも書くのも恐れられている、海からやってきて人々に災いをもたらすものさ」

古くからのしきたりがたくさんあってね、とつけたす。“あれ”はいるのか、いないのか。
私はいると思う。伝説にしては、やけに現実的な表現だからだ。金色の瞳に白い髪、黒と黄の縞模様の細い手足。


「どんなところなんだ、お前の故郷は」

「へんなとこ。古いわけの分からない掟に縛られた、孤立している島だね」

「島なのか」

「うん、そう。拝島だよ」


白蛇様、荒神様、あれ、持念兄弟、神宮の鱗。数え始めればきりのない伝説、しきたり。



嗚呼、荒太たちは元気だろうか。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ