晴嵐-seiran-
□白蛇@ 島に帰る
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日があけた。今日大学の講義はほぼないので、武道場も空いているようだ。許可をもらい、中に入る。
ボストンバッグから衣装や道具を取り出し、更衣室で着替える。久々の一人での着付けに少し戸惑う。
「“仮面なら金色の瞳は見えない 耐え難い空白の時を超え 今夢から目醒めたまえ”」
本来は、ひっそりとした伴奏もつくが、今日は仕方がない。この歌を詠むのも私じゃないが、なんとなく雰囲気が出したかった。
「“白銀の扇は闇を切り裂き あれの・・・・・・”」
「琴葉?」
「ハイジ?」
扇を持った手が不自然に止まる。仮面をつけていなくて良かった。
「何でこんなところに?・・・それに、その服」
「まあ色々あって。夏に故郷である祭で舞わなきゃいけなくなったんだ」
「へえ。どんな内容なんだ?」
「“あれ”を遠ざけるためのうたとまいだよ」
「あれ、って・・・?」
「名前を言うのも書くのも恐れられている、海からやってきて人々に災いをもたらすものさ」
古くからのしきたりがたくさんあってね、とつけたす。“あれ”はいるのか、いないのか。
私はいると思う。伝説にしては、やけに現実的な表現だからだ。金色の瞳に白い髪、黒と黄の縞模様の細い手足。
「どんなところなんだ、お前の故郷は」
「へんなとこ。古いわけの分からない掟に縛られた、孤立している島だね」
「島なのか」
「うん、そう。拝島だよ」
白蛇様、荒神様、あれ、持念兄弟、神宮の鱗。数え始めればきりのない伝説、しきたり。
嗚呼、荒太たちは元気だろうか。