晴嵐-seiran-
□B 焦がれられる
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六月末、なかなかアオタケへいけない日が続いていたが、記録会のたびに琴葉は清瀬から連絡をもらっていた。
そんななか、二度目の東体大の記録会で王子も十七分の壁を突破した、という連絡をもらった琴葉は、酒をカバンの中に入れ、アオタケを目指していた。
親からの色々な小言を着拒で乗り切り珍しく夜に暇ができた、ということで少し遅れつつ琴葉はアオタケの敷居を潜る。
すると、二階の双子の部屋からにぎやかな音が聞こえてきて自分でも気づかぬ間に琴葉は微笑む。
板が抜けないように注意しながら傾いた階段を上り、双子の部屋の前に行く。
ノックもせず、古びた扉を開けると中から遅いじゃないか、待ってたよ、等の声をかけられる。
「酒持って来たー」
と言えば
「やったぁ、有難う!」
「毎度毎度悪いな」
「今日は何を持ってきたんだ?」
と期待する声がかかる。琴葉は酒を清瀬に渡してコップをもらい、窓辺にいる走の傍へ行く。
「走」
「あ・・・琴葉さん」
「どうかしたか?」
「いえ、なんでもないです」
うそだろ、と琴葉は思った。走は黙々と酒を飲み、何か考えている様子だった。
「走、焦ってる?」
「何なんですか、急に」
ああ、と走は思う。どうしてこの人はすべて見透かしてしまうんだろうか。俺はそれが恐くて仕方がない。
「いや・・・浮かない表情だったから」
「琴葉さんこそ急にどうしたんですか」
走が少し慌てたように反論する。それでも琴葉は納得してないような表情をして、走を見た。
「琴葉、君も飲むかい?」
「スギさん。・・・もらおうかな」
「はいはい」
気まずい雰囲気の中に、少し酔っただろう神童が割り込む。琴葉がコップを差し出すと、神童は酒の入った瓶を傾け、コップに酒を注ぐ。
「そんなにすごいことですか」
酒がこぼれた。