晴嵐-seiran-
□A 儚
2ページ/2ページ
「琴葉、俺が送るよ」
帰ろうとしたとき、ハイジに言われた。前は送られるというのは慣れなかったけれど、変質者に絡まれて以来何かとアオタケの住人が世話をやくようになった。
高校だった頃は一さんと清先輩と3人で散歩のようなこともしていたが、あの頃はまったく平和だった。
「ハイジ」
「じゃあハイジさん琴葉よろしくね」
「暴れない暴れない」
神童ことスギさん。よろしくというのはなんだか癪なので、とりあえず否定しておく。
だがきっとこの人は信じていないのだと思う。前もそういって絡まれて暴れてきたから。
「暴れるって何ですか」
「走、知っていい事といけない事がこの世にはあるんだよ」
「失礼だなハイジ」
「まあまあ。」
「行くか」
「了解ー」
スギさんに宥められた。ほろ酔いしているからかそこまで反抗する気は起きない。五分もかからない道のりをあくまでもゆっくりと急がないように歩いていく。
「前は大分違ったが、なんだか懐かしいな」
「ハイジが3年の時?」
「そう。藤岡と3人で夏祭りの帰りに同じように送っただろ」
「私は半分逃げるような気持ちもあったんだけど、な」
懐かしい記憶。一さんとは学校が違うし今はもう二度とそんなことをするような機会はないだろう。中学や高校にいた頃は、まだ幼かった。
何でも一人でできるような気になって、気づいたら他人との間に一線引いて、とてもじゃないけど親友どころか友人と呼べるような人がいなかった。
独りが苦でもなかったしいいか、と思っていた矢先にハイジ・・・清先輩や一さん(主にハイジだったけど)がずかずかと人の領地に踏み込んでくるから嫌だったな、と過去に想いを馳せる。
「ハイジは一さんと連絡取り合ってないの?」
「してない、な。自然と琴葉が間に入って伝えてるし、それでも困ってないからな」
苦痛ではなく気まずくもないどちらかと言うと心地よい沈黙。見慣れた道を進みながら、その沈黙を破るのは少し気が引けたけど、でもこのまま終わるのもなんだかもったいなくて。
ここにはいない人間を引き合いに出すことでどうにかバランスを保とうとしているのなんて、互いに分かってる。そうでもしないとどちらも下に堕ちていくから。
「ここまででいい」
「ああ、おやすみ」
「うん、ありがとうハイジ。おやすみなさい」
「そうだ、最近晩のジョッグで商店街を走るんだが、とうとう双子にも春が来たらしいぞ」
「へえ?大体何時くらいにやってるの」
「夜の8時くらいだな。暇があったら来てくれ。」
「ああ行かせてもらうよ。じゃあまた。」
「じゃあな、琴葉。」
ここでもう終わりか、と残念に思う反面、暇ができたら商店街散歩しようかな、と期待する気持ちもあった。
どうか、またいい時間に暇を作れますように、と酔った頭で考えながら頑丈にセキュリティでロックされたマンションのエレベーターに乗る。
無駄にガラス張りのエレベーターから無感動に下を見下ろすと、アオタケに帰るハイジの背中が見えた。
酷く切なくなったのは何故だろう?
To be continued?
20:52 2009/01/08