晴嵐-seiran-
□白蛇A 懐かしい再会
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「いまの場合、身体じゃなくて、問題は運動神経にあるって犬丸なら言うな」
「いぬまる?」
離れの一室から聞こえてくる会話。いぬさんのぴたりとつまみを盆にのせる手が止まったので、からかいをこめて小突いてやる。
じろりと睨み付けられたが、もう大体慣れてきた。
晴嵐“白いへび眠る島”side
A 懐かしい再会
訪問客-夜香-風邪-湖に落ちる
「ほら、荒太よんでる。いぬさん行かないと」
「犬って呼ぶなって言ってるだろオマエラ。ほれ、つまみ」
「や。久しぶりだね、光市、悟史」
「あれ、琴葉さんも帰ってきてたの?」
光市がごくごく自然に言う。俺も記憶を探り、目の前の黒い浴衣を着た琴葉という女性について思い出そうとする。
「琴葉は普段東京の大学にいるからそんなに帰ってこれないし、悟史君はほとんど覚えてないだろうね」
荒太さんが言う。
「今回は、帰ってこざるを得ない状況だったでしょうが」
彼女が荒太さんの頭を小突く。荒太さんは困ったように笑い、彼女と何か話しているようだ。
その二人に犬丸さんが割り込み、また何か話している。
「ああ、もしかして俺らの3つ上の?」
「そうそう。こんな見た目してるけど僕より年上でオバさゴッ
「黙れ荒太!」
「ハイハイ落ち着け落ち着け」
オバさんではいと思う。21なら大丈夫だと思うけどなあ・・・。
怒る琴葉さんと、ごめんごめん、と謝る荒太さんを見る。犬丸さんは一応止めつつも楽しそうに見ているだけだ。
「稽古しなきゃいけないからそろそろ私は消えようかな」
ふと思い出したように(少しぐったりした荒太さんを片手で持ちながら)琴葉さんが言う。
光市は、ケイコ?と不思議そうにつぶやいた。
「ああ・・・彼女仮面の舞しなきゃいけないんだって」
「年齢的には君の妹らへんだが、彼女たちは女踊りらしいからね」
仮面の舞、というのは大祭の時に舞われるもので、3回の大祭で一度やればすごいことらしい。
独特な動きと仮面で視界を遮られる、ということで毎回一応大祭のたびに誰かやる人を決めるが、できずにいるとか。
「すごいですね」
「小さい頃に叩き込まれてたしそうでもないな」
もう面倒になったらしく胡坐を掻きながら言う。
彼女は父親が拝島の出らしいが今は世界中を飛びまわっていて、めったに会うこともないらしい。
たまに帰ってきたときは、必ず神宮の家が彼女を泊めている。
「じゃあな」
「明日楽しみにしてるねー」
光市がのほほんとした口調で言う。彼女は少し笑って、離れの奥へ行った。
きっと明日は美しい舞をみせてくれるのだろう、と思う。