Everything in its right place
□8 Undisclosed Desires@MUSE
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黒いストレートのズボンに、淡い青色のカジュアルなシャツ。ふわりと白いショールを巻いて、紺色のブローチで落ちてこないようにとめる。靴はかかとのあるミュールを履いて、準備完了。
・・・少し遅れそうだな。連絡、入れておこう。そんなことを考えながら鍵とヘルメットを片手に玄関へ。
「あら、刹那。珍しいわね、アンタがそんな格好してるのは」
「ああ、今日はデートですから」
久しぶりにハイジのご飯を食べに、ていうのが目的だけど。ピシリと固まった響子さんを置いて外に出る。・・・秋の冷ややかな風が気持ちいい。
白いショールに顔をうずめて、かつんかつんとかかとを鳴らしながら歩きながら考える。。今日はお土産も持っていくし、忘れ物も無い。
でも私は知らなかった。ぽつんと立っていた響子さんが、何て言っていたかなんて。
「刹那と古賀って付き合ってたわよね・・・?ま、まさか刹那に限ってそんな事は無いと思うけど・・・浮気?」
Session 8 Undisclosed Desires@MUSE
「あ、そうだ。今日琴葉来るから」
「刹那さんですか?何でまた」
「今日暇らしいから遊びに来いって誘った」
「あの東体大の人でしょ?かっこいいよねー」
「夏の合宿でも普通に速かった人やな。・・・オレよか絶対速いわ」
「仕方無いっスよ、キングさん。あの人5000で軽々と14分代出しますから」
「・・・それ、本当なの、カケル?」
恐る恐る、といったように聞くのは神童。・・・そういえばなんかそれくらいで走ってた気がするな。・・・懐かしい。まだ2人して島根にいた頃、思い出した。
・・・今日は、色んな思い出話をしよう。藤岡の事とか、たくさん楽しい思い出がある。高校からはもうあの家に琴葉はいなくて、すごく変な感じがしたっけ。
小さい頃から一緒に育てられて、兄妹って訳じゃなくても仲がいい2人だったと思う。走る世界に琴葉を誘ったのはオレだ。
あの時はただ純粋に走ることが楽しくて仕方なくって、日が暮れるまで2人して追いかけっこみたいにして走ってた。
今は、琴葉とオレとじゃ立場が随分変わったよな。・・・でもさ、琴葉がオレにとって大切な存在である事に変わりは無いんだよ。
「ていうか、駅まで迎えとか無くていいのか?」
「ああ、何かバイクで来るって。別に駐車スペースはいくらでもあるし、いいかと思って」
「・・・バイクなのか」
「免許は高校出たら、っていうか大学決まったときに取ったって聞いたぞ」
「あ、それ聞いた事あります」
「カケルは高校一緒だっけか?すげえよなあ、あんな先輩いて」
「・・・いい先輩だったと思いますけど?」
きょとんとした様子のカケル。ああ、これなら恋愛感情とか持って無いな。単に速い先輩だと思ってるだけだろうからな。
ニコチャン先輩やキングが気になるのか色々聞いてるが、たぶんカケル自身は何でそんな質問されてるのかも分かってないと思う。・・・本当、走ること以外は不器用だな。
その時、ガラガラという音と共に玄関の扉が開いた。・・・琴葉にしては早いと思うけど、誰だろう。
「あの、こんばんは」
「あ、ハナちゃん!ごめんハイジさん、オレたちが呼んだんだ。いいでしょ?」
「・・・まあいいか。人数が多いほうが楽しいし、な」
わーい、と喜ぶ双子。勝田さんは何がなんだか分からない、という様子で双子を見ている。琴葉とは夏合宿の時に面識もあるし、まあ別に大丈夫だろう。
「今日はね、合宿にいた東体大の女の人が遊びに来るんだって」
「あ、刹那さんだったよね。女の人でもあんなに速く走れるんだ、って思ったから覚えてる」
「だよねー!たぶん、オレらの中じゃカケルとハイジさんくらいしか勝てないよ」
嬉しそうに言う事じゃないだろうが。琴葉に勝てるくらいまで速くなれとは言わないが、雲の上の存在とは思って欲しくないな。
どこまででも速くなってやるって貪欲になるに越した事は無い、と思う。
・・・ああ、そろそろ琴葉も到着するかな。
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