チーム・バチスタの栄光

□ジェネラル・ルージュと出会った日
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一度目は、15年前の城東デパート火災で父親が死んだ時。
二度目は、母がトラックに突っ込んで死んだ時。
三度目は、私が研修生だった時。

思えばいつの日も雨が降っていた。私が雨女なんじゃなく、彼が雨男なんじゃないかと思う。


あの時私はまだ中学生だった。
思い通りに行かないと私に手をあげる母親。父親は家の名前だけで威張り散らしていた。
私に流れる半分の血は、今の父親から受け継いだものではない。
前の父親は、小さいころから病気がちで、私がまだ幼い時に死んだ。母は翌年に今の父と再婚。
あの人とは無関係な私は、あの二人にとっては邪魔な存在だったに違いない。
そんな状況にいれば私がいねくれて感情を表に出さなくなっても不思議は無いと思う。

とにかく、とある日に学校から帰ろうとしたときに、母親から連絡があったのにはとても驚いた。
その内容が「父が死にそうだ」という内容だったのには思わず笑ってしまったが。
さらに母は「今すぐ東城医大に来い」といって一方的に電話を切る。無視するわけにもいかないらしい。

ザアザアと雨が降る。父が死んだであろう火災があった場所には雨が入り込まなかったのだろうか。
そういえばあの場所には屋根があったっけ。おぼろげな記憶を呼び覚ます。
桜宮に到着する。雨は相変わらず雨脚が弱まることも無く、気に入っている白地に黒のラインが入った傘をさす。
別に興味もとくには無く、急ぐ意味も無いと思い、私はゆっくりと雨音を聴きながら歩いていた。
病院に近づくにつれ、未だ人が運び込まれているであろうサイレンの音が大きくなってくる。
忙しなく動く人々の中で、母だけがぽつんと入口で下を向いてたっていた。
私を見つけると、怒りと悲しみをごちゃまぜにしたような表情になった。。


「遅いわ!あなたの父親が死ぬかもしれないのよ!?」

言いながら、中に引っ張り込まれる。腹部に何か突き刺さった状態で、頭から血を流す父がいた。
呼吸も絶え絶えで、気管を火傷したのか喉がひゅうひゅうと乾いた音を立てる。
顔のそばには黒いプレートのようなものがおかれている。

「誰も手当てしてくれないの!貴方からも言ってやってよ!!」

ヒステリックに叫ぶ。もう見放されてるんだから誰も手当てしないだろ、と小さくつぶやく。まいったな。来るんじゃなかった。
周辺の看護士や医師がちらちらとこちらを窺っていることから、先程からこの調子だろうと推測できる。

「もう、手当ての仕様が無いんだろ」

「そんな事、無いわ!!死ぬなんて・・・貴方の父親じゃない」

「義理の、が抜けているよ。もうこれで用件は終わり?帰りたいのだけど」

パアン、と聞きなれた乾いた音がする。本当の事しか言ってないのになあ。
心の中で悪態をつきつつ、そろそろ死にそうな父の傍らでさめざめと涙を流す母を見る。
嗚呼、手いつの間にか左手が父の血で汚れてしまっている。手を洗ってから帰るか。

「じゃあ、もう帰るから。バイバイ」

もう二度と会うこともないだろう父へつめたい別れの言葉を。
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