Lady General

□2 青空に手を伸ばす
1ページ/1ページ

ようやく着いた。バスが止まると舞衣たちの喧嘩も一段落ついたようで、風景を見てうれしそうに話し始めた。
それを見て、このバスに乗っていた田岡監督がだいぶ怒ってたのはご愛嬌ってことで。説明中なのに話してるのが悪いんだよ。

私は何も見てないから。そんな目で見られても何もいってあげないよ、舞衣。



「琴葉ー!!!」

「瑛五月蠅い」

「お、この連載初の台詞は五月蠅いか」

荒木が何か言っているが、無視しておこう。そんな裏事情を流出されて困るのは管理人だけどな。
突進してくる瑛をひょい、とかわしてから後頭部へエルボー。いたそうにもがいているのが視界の端にうつる。

「琴葉さん、もうちょっと手加減してあげてくださいよ・・・」

「サッカーできる程度には加減してるから大丈夫」

え、それでいいの?という声は聞こえなかったことにしておく。

「学校ごとに集まって整列ー!!なでしこ枠の3人は自分の学校に!」

「あら、集合ね。それじゃあ琴葉さんまた後で。群咲さんもね」

「うん♪蹴学一番はしっこだから急がなきゃ。じゃーねー!」

ひらひらと手を振るしぐさに同じようにして返す。葉蔭は中心のあたりにあつまるらしい。

「じゃ、また後で」

「おう!」

瑛がうれしそうに言う。多分こいつは残るんだろうな。だからそんな余裕でいられるのかもしれない。
ま、私はどっちでもいいから気楽にやってるだけだけど。


「琴葉せんぱーい、バス違ったから寂しかったー!」

「はいはい」

駆け寄ってくる鬼丸の額を軽くはたく。鬼丸はちぇ、と言って叩かれた額を右手でさすっている。
あきれたような目で見ている飛鳥に全員揃ったか、と聞くとこくりと頷かれた。
葉蔭からは飛鳥、鬼丸、白鳥の3人となでしこ枠で私。部活組は一校から数人、という感じだろうか。
逆にユース組がたくさんいるのかというとそう言うわけではない。ユースと部活との比率は大体半々ってとこか。
女子が供給できたのが神奈川と東京だけだったから、ほかの地域から来てる人は大体アンダーとかに呼ばれるような人たちなんだろう。

「静かに!今回はイレギュラーな企画なので戸惑っている者も多いかと思うが、これから説明に入る!」

「あの監督、桜井ってゆってアンダーの監督もしてる人っス」

鬼丸がひそひそと声を潜めて言う。鬼監督なんだよなーとかボヤいているようだ。

「最近の女子の活躍に目をつけたどっかの会長が、こんな企画を用意した。高校生の男女合同で大会を開いてみよう、と。
最低でも1人は女子にゼッケン入りのユニフォームを着させて30分間は走らせるっつーのが大会のルールだ。
それでも男子中心のチームになるだろうから、どの国も力を入れてレベルの高い男子を組み込もうとしている。
だからこの中にはアンダー常連やらユースのエースが集まっている。女子は3人なでしこの高校生プレイヤーを読んだが、正直俺は男子レベルについていけないと思っている。
3人のレベルが低いとは言わないが、それでも限界がある。かといって男子のレベルを下げるようなことはしたくない」

それは確かに一般論でもある。男子と女子が完全に区別される高校生なら、余計そうだ。
小学生の頃ならまだ同じレベルだったかもしれないけど、と大人たちは考えているんだろう。だとしても、この代表には残りたい。30分あればアシストも得点もできるだろうし。

「ここにくるからにはそこそこの実力が無いといけない。最初から50人程度しか集めてないが、3日の間に20人は決まるだろう。こういう場をナメてかかってるやつは、早々に落ちてもらう。
合宿の中でやる気がないと判断された生徒はその日中に帰ることになるだろうが、それが認められないヤツはもう帰ってもらって構わない。
本当に実力があって、いざというときに結果を残せるやつが生き残るということを忘れるな!俺からは以上だ」

「先輩、残って一緒にサッカーしましょうね」

「はいはい」

目を輝かせて話しかけてきた鬼丸を軽くあしらう。どこを見ても参加者たちは本気の目つきをしているし、やる気がないと判断されて帰るような人間はいないだろう。
近くにいる奈々も、分からないけどきっと舞衣も、改めてどれほど困難なことをしようとしているか分かったと思う。
そりゃやるからには残りたいと思うが、基本的に私はあまり執着心をもてない人間だからなぁ・・・。まあいいけど。

「それじゃあ、GK+守備3人対攻撃3人のミニゲームを行います。2つのピッチでやるので、呼ばれた人はゼッケンを受け取ってあいているピッチに入ってください」

「へえ、手っ取り早く一気に6人ずつ見ていく気か。何か燃えてきますね♪」

「そういう人は少ないだろうな。大体変にプレッシャーを感じて緊張してると思う」

「鬼丸はバカだもんねー」

「白鳥先輩失礼じゃないですかー!」

「緊張感なさすぎだ・・・」

「飛鳥・・・」

和やかな雰囲気を今撒き散らすのもどうかと。


***


「次、守備は本田マイケル、島亮介、幸村拓。攻撃は鷹匠琴葉、世良右京、荒木竜一」

「・・・出番か」

「先輩がんばれ!」

葉蔭の人たちと一言二言話して、鷹匠琴葉先輩はピッチに来た。
反面しかピッチを使わないこの形式だけど、ボールが転がっていってしまうこともあるからか2つのピッチを使用している。
鷹匠瑛・・・うちの10番のきょうだいだというこの人の実力がどんなものか、一度見てみたいという気持ちがあったから正直この人選はうれしい。
本当に女子が男子と混ざってやっていけるのかとか、監督たちも注目しているんだろう。

「や、マイケル。今回は敵だね」

「止められる気がしないな・・・」

本田マイケルがふう、と小さくため息をついた後に、くるりと後ろを向いてガッツポーズしてたのは何故だろう?
彼も鷹匠琴葉の“すうはいしゃ”の一人、みたいなものなんだろうか。鷹匠先輩もだし、佐伯くんや国松さんもそうだろう。
その中でどれだけの人が恋愛感情を抱いているのかなんて俺の知ったこっちゃないけど、ほんの少しそういう興味が沸く。
嗚呼、こんなこと考えてる時点でもう俺も彼女の“すうはいしゃ”のうちのひとりになってしまっているんだろうか。

「よろしく」

「ま、このメンバーなら楽勝だな。俺もいることだし!」

「U16では10番彼に取られたくせに」

「う、うるせー!」

確かにそれは事実。彼女の“すうはいしゃ”のうちの一人くらいはU16に来ていただろうから(嗚呼、佐伯くんがそうか)、そこから知ったんだろう。

「で、作戦どうします?」

「適当に持ってってだれかそんときいた人がいれればいいんじゃない?」

「いや、先輩アバウトすぎっス」

「じゃあマイケルの相手は私がやるから、残りどうにかして」

「いや、それでもアバウトっス」

「・・・荒木は私に何を求めてるんだ」

「だって先輩一番年寄りだしー」

「年寄り言うな。・・・世良は?」

「え・・・もう最初ので良くないですか」

会話についていけない。ぽんぽんと話はあっちこっち飛んでくし、大体が短い言葉で話しているから、この会話について行くのは俺にはちょっと難しい。
いきなり話を振られるとは思ってなかったから、正直言ってすごく驚いた。・・・まあ、こんなんじゃ最初のが一番いい作戦な気もするけど。

「ほら、反対荒木だけ。2対1で決定な」

「ええー?そんなぁ」

「じゃあ何か策でも?」

「・・・無いっス」

無いなら反対するなよ。二つの非難の視線をあびた荒木さんは、すねたように口を尖らせて顔を逸らした。・・・いや、いいのかこれで。
相手は仮にも神奈川じゃ三指に入るDFにU16でも実力はあるって分かった島さん、東京蹴球学園のレギュラーの三人なのに。

「さ、行きましょ」

ふと視界いっぱいにとびこんできた青空は、透き通るみたいに高かった。


***


「島は荒木、幸村は世良な」

「・・・それでいいですけど、態々彼女にまでマークつける必要あるんスか?」

「いざとなったらそれは忘れてくれていい。ボールを奪うことが先決だからな」

この選考じゃ、攻撃側がゴールするか、完全に守備側がボールを奪えば終了。スタートは攻撃側からだが、今までで言うと、守備側がボールを奪って終了している事が多い。
・・・でも、このメンバー相手じゃ気は抜けない。彼女の実力はよく知っているつもりだし、甘く見るつもりもない。

「・・・さっきから気になってんだが、お前って鷹匠琴葉のファン?」

「ああ・・・なるほど、それでなんだ」

「え、違っ・・・」

いや全然違うこと無いけど!ああそうさ試合は欠かさずチェックしてるし、スタジアムまで見に行ったこともあるけど!

「ほほほほほらもう始まるぞ!!」

「「・・・(何だ、図星か)」」

やばい、今絶対顔赤い。なんで分かっちゃうんだろう。別にそんな素振り、見せたつもり無いのに。
ちょっとサッカーに詳しい人ならよく知っていると思うし、別に女子編のカード出たときはネットで大人買いしたなんて一言も・・・。

「嗚呼、そっちの布陣が予想通りみたいで良かった」

「はい!?」

「・・・そんな驚かれると、逆にこっちが驚くんだけど」

勢いよく振り返ると、そこには当然彼女がいる訳で。ああもう顔赤いのバレてないか?動揺するな俺!今はミニゲームの事だけを考えろ!
俺がいる右サイドには彼女がいて、ボールに足を乗せているのは荒木、中央よりに左にいるのが世良だ。・・・考えろ、先の手を読めば、ボールは取れる。

「始め」

桜井監督の隣で眼鏡をかけた男の人が言う。その言葉を聞くと同時に荒木はボールを蹴りだし、中央突破・・・いや、違う。

「島、」

「他に指示だす余裕、あるんだ?」

指を立てて指示を出そうとすると、横からからかうみたいな声。そして次の瞬間風が吹きわたる。・・・マーク、いきなりはずしにかかったか。
だが、そう簡単に外せる程俺は下手じゃない。いくら彼女が相手でも、きちんと防げば勝機はある!

「せんぱーい、とっとと決めちゃって!」

「ちょ、何パス出してんだ荒木ィ!」

そうは言いつつも軽々と強いパスを受け、ゴールを向く。予想外の事なのか知らないが、動揺してるなら好都合、なんて考えたりはしない。
彼女はそういうことに対応できるだけの力はある選手だ、と思う。

「え、!?」

戸惑ったような声を上げるのは誰だ?彼女はそのままドリブルするでもミドルシュートを放つでもなく、回転のかかったボールをゴール前に出した。・・・大丈夫だ、あれは入らない。
かぁん、と音が響き、ボールがバーにぶつかり、また宙に舞う。落下点には世良がいるけど、あれならシュートを打たせることもないだろう。
世良はそれを予想していたようで、ふわりとループで逆のポストに詰めている荒木に出した。それを見て、彼女はバイタルエリアまで下がる。・・・ゴールに絡む気はないのか?
ボールからそこまで離れて、俺をひきつける気なのか?それなら荒木を2人で潰せば、

「今度こそよろしくっ!」

「な、」

くるりと荒木の方を向いた瞬間、俺の頭を越えるパス。それは正確に彼女のところまで届いて、そのままダイレクトでシュート。
力強いそれは、キーパーの手をはじいてゴールに吸い込まれた。・・・荒木が行くかと思ったのに。

「先輩ナイスシュート!ま8割、くらい俺のおかげだけどな!」

「荒木さんもっと正確に素早くパス出せばいいのに」

「黙れ世良!」

「うんまあ正直どうでもいいけど」

「どうでもいいのかよ!」

叫ぶ荒木を右腕一本で黙らせて(パーじゃない、グーだった)、彼女はくるりとこちらを向いた。

「ま、今回は私らの勝ちって事で」

「ああ・・・負けたよ。ボールに行くべきかマーク続けるか迷った俺のせいだ」

あそこで荒木を完全に無視していたら、どうなっていたのだろうか。まぁ得意の人の予想を超える戦術でまた翻弄されてただろうけど、な。

「次は無いぞ」

「そう、じゃあまた新しいの考えるか」

「とか言ってぶっちゃけ俺ら戦術無かったけど」

「はあ!?それなのに荒木あのタイミングでパス出せた訳!?」

「驚け島!もっと俺を崇めろ!」

「別に崇められちゃいないと思うな」

「黙れ世らべふっ!!」

「・・・お前が黙れ、荒木」

「ひゃい・・・」

・・・目が笑ってない。荒木の顔面を殴り飛ばして言う台詞は怖いし・・・。あれ、おかしいな。こんな人だったっけ?

「おいお前らはしゃぐのもいいが、次があるんだから早く出ろ!」

「すみません監督。でも悪いのは荒木一人です」

「ちょ、先輩!?」

「それぐらいみてりゃ分かる!・・・次は?」

「あ、はい。ええと・・・」

「っておい!みてりゃ分かるって何だよオッサン!!」

高らかに呼ばれた6つの名前。俺の出番はもう無いことだし、もうひとつのところでも見に行ってみるか。

「・・・うわ、眩し」

白く光る太陽が眩しくて、左手を伸ばす。指の合間から漏れる光は、やっぱりまだ眩しかった。




Lady General
青空に手を伸ばす
(嗚呼、次瑛なんだ)(おう、まあ見てろ。お前よりすごいシュートするからよ)(奈々のところ行ってくる!)(ちょ、琴葉ー!?)

20:28 2010/04/01


青空に手を伸ばすのはマイケル。世良は青空が高いことにようやく気付く、といったところでしょうか。
一応この連載マイケル、世良、傑中心なので。微妙に伏線です。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ