Lady General

□1 幻想の中の夢
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ふわりふわりと漂うような雰囲気に、小さな頃に夢見ていた、雲に乗ってみたらこんな感覚なのだろうかと考えていたことを思い出す。
所詮夢でしかないそれだが、まさか19にもなって体験することになるとは思わなかった。

突然意識が浮上する。ふわりふわりと小さな頃の幻想の夢はしゃぼん玉のように弾けてなくなってしまい、後に残ったのはつまらない現実だけだった。



「あ、起きました?もうすぐ合宿所に着くらしいですよ」

ぱちりぱちりと何度か瞬きをしていたら、隣にいる奈々が声をかけてきた。
ごしごしと袖で眠気を払うようにして目元をこすると、前から黒い頭がひょっこりと出てくる。

「よくこれだけ五月蠅い環境で寝れるよなあ」

「荒木さんだってうとうとして廊下に体が半分はみ出てたじゃないですか」

くすり、と奈々か笑って言うと、黒い髪の男─荒木は唇を尖らせてバツの悪そうな顔をする。

「疲れてたんだよ、遊び疲れ」

「琴葉さんに色々いえるような立場じゃないと思いますけど」

「確かに」

軽く同意する声が後ろから聞こえてくる。軽く首と曲げると、座席を倒していた私の席と奈々の席の隙間から祐介の顔が見えた。
後ろの席ということもあって、なんだかんだで大体のことはきこえてくるらしい。

「佐伯くん」

「こんにちは。美島さん、荒木さん、琴葉さん」

にっこり笑って祐介が言う。

「佐伯くん、ほかの鎌学メンバーは?」

奈々が尋ねると、祐介は少し困ったような表情をする。

「このバスに乗ってるのは俺と世良だけじゃないかな。ほかの人はたしか前のバスに乗ってたと思うよ」

そういえば、鎌学は参加者全員がひとつのバスに乗れなくて残りは違う号車に移動していた。
奈々と荒木も思い出したのか、納得したような顔をしている。

「そういや前のバスかどっかに鎌学乗り切れなくてこっち来てたんだっけか」

「じゃあこのバスに選ばれた人全員乗ってるのは湘南大付属のメンバーくらいなのかしら」

「多分そうじゃないかな。葉蔭はもっと前のバスだったし、江ノ島は荒木さんと駆だけですよね」

「そーだな」

「なでしこは私と琴葉さんと群咲さんだから、このバスに全員いるわね」

廊下を挟んで隣側の席で、舞衣がポカリを飲んでいるのが見える。人数の関係で彼女は一人で座っている。

「ねえねえ何の話してるの?」

「バスに乗ってる人たちの話よ」

「そっかぁ・・・あ、蹴学からはユッキーとマッキーが乗ってるよ」

「ユッキーとマッキー?」

きょとんとした様子の面々を見て、舞衣が付け加える。

「えっとね、幸村拓と風巻涼。分かるかな?DFとFWなんだけど」

「・・・なんとなく」

誰も蹴学イレブンのメンバー全員を覚えていなかった。自分の所じゃないし、顔と番号は分かっても名前までは難しいんだろうか。
仲間内だけで呼び合っている愛称を使われたら全く分からなくても不思議はないが。

「呼んだ?」

顔を覗かせるロン毛。ロン毛に肩を叩かれたの隣の男は不機嫌そうな顔をして振り向く。

「んー、ちょっとね」

「群咲、ユッキーはやめろ」

「えーダメ?可愛いと思うのになあ」

やめろ、という言葉からして不機嫌そうな方が幸村で、ロン毛が風巻だろう。

「もしかしてそっちに座ってるのってリトル・ウィッチィとレディ・ジェネラル?」

「やだーマッキーってば!女の子でここにいるの3人しかいないじゃなーい!」

「いやーでもなんか嬉しいな。なでしこジャパンの4番と7番に会えるなんて」

「ちょっとーここに18番もいるよー」

「舞衣は蹴学の生徒だし、会おうと思えば会えるだろー」

高いテンション、のはずが微妙に不協和音になって聞こえてくる。蹴学独特のノリなんだろうか?

「琴葉さんは人気ありますもんね。私だってなでしこに入る前から憧れてたんですよ」

奈々が言う。2年前にアメリカに帰ってきたと聞いたが、やはり日本でも女子サッカーはチェックしてたようだ。

「鷹匠琴葉知らないなんて、男子にもまずいないさ。女子なら知ってて当たり前だと思うけど」

「だよなー。ユッキー分かってるじゃん」

「ユッキーって言うな」

口喧嘩をはじめた二人。舞衣はしーらないっ、と言ってこちらに顔を向ける。

「受かるかどうかわかんないけど、精一杯頑張ろうね♪」

「そうね。互いにがんばりましょう。まあ、琴葉さんは絶対受かるだろうけど、ね」

ひらひらと手を振って否定を表す。絶対なんてまず絶対有り得ない。スランプに陥ることだってあるだろうから。
絶対受かるって言うと瑛とか飛鳥とかマイケルとかだろうか。

「まあでもフル代表なんだし、舞衣やリトル・ウィッチィだって受かるさ」

「えー何そのいかにも付け加えましたっていう口調!」

再び口喧嘩勃発。原因は同じ風巻の発言。


わいわいと騒がしい雰囲気の中、とりあえず瞬きしてみる。大して何も変わらなかった。




Lady General
幻想の中の夢
(あれ、琴葉さん何もしゃべってないんじゃないですか?)(祐介、管理人がサボっただけだから)

16:27 2009/06/07
 

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