チーム・バチスタの栄光

□ジェネラル・ルージュと出会った日
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人気の無い廊下を少し歩いて、やはり人気の無い手洗いで手を洗う。正直血がこびりついて不快だ。
赤くこびりついたものをすべて取り終える頃には、左手だけが異様に赤くなっていた。
ふと視線を上げて鏡を見ると、叩かれた左の頬が腫れていた。そして、鏡には私以外にもう一人。

「・・・誰。女子トイレをのぞくのはどうかと思うが」

「悪いけどのぞきって訳じゃなくてな。ここの医師の速水晃一だ」

紫色の包装紙にくるまれたチュッパチャプスが飛んできた。
甘いものはあまり好きというわけではないが、腕がもげた遺体やなにやらをみて知らぬところで気分が悪くなっていた。
ぺりぺりと紫を剥がして、口に含む。人工のグレープの味がした。速水と名乗った男はまさか私が食べるとは思わなかったらしく、驚いている。

「・・・甘い」

「そりゃまぁ、チュッパチャプスだからな」

ほんの少し舐めて、口から出す。口の中にグレープモドキの味が残り、僅かに顔をしかめると、隣から笑い声が聞こえてきた。

「甘いものは嫌いか?」

「・・・苦手」

ちらりと横を見ると、速見と名乗った男の唇が不自然に紅い事に気づく。ルージュでも塗っているのか。

「そうそう、俺だけ名乗るってのは不自然だろ。お前、名前は?」

「刹那琴葉。多分もう会うことは無いと思うけどよろしく」

す、と差し出された手を軽く握る。このときは、本当に会うことはもう無いと思っていた。
5年後にまさかまた会うとは誰も考えないだろう。握手した後すぐに看護士に呼ばれて速水という良く分からない人は去っていった。
最後に、彼は帰り道は知っているかと聞いてからこう言った。

「道が分かるなら大丈夫だな。・・・あ、あとお前の父親は死んだよ」

その言葉を聞いて、多分今日はじめての笑顔が零れたのは、ようやく少し自由になるから。
後ろで看護士がそんなことを本人の前で言うなんて、と咎める様な顔をする。私が笑ったのにはとても驚いているようだったが。



東城医大スタッフによる神様観察日記
〜神様だってたまには人間のやることにちょっかい出したくもなるさ〜

速水先生、今の女の子は誰ですか?「能ある鷹はつめを隠す」ってね。はい?
面倒だから手抜いてるのバレたかな。
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