小説

□夢みて恋して
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【夢みて恋して】








あの人と出会って、僕は変わった。
好きな人はいるのに、僕はあの人を好きになった。
必死に生きようとする彼の姿に惹かれたのかもしれない。

「国土さんっ」
「あ……太郎さん」

佐藤太郎さん…ほんと素敵な人だ。
恰好は少し、みすぼらしいけど優しい表情で僕を見つめてくれる。

「どうしたんですか?」
「近く寄ったんで、国土さんの顔見ていこーって思って」
「そうですか」

その無邪気で純粋な性格…太陽のような笑顔。
僕のものにしたい…けれど、彼には子供がいる。
心の奥底に秘めてる気持ちを、伝えられないでいる…僕。

「お昼、一緒に食べますか?」
「え?いーの?」
「はい。だって僕、太郎さん大好きですから」
「ありがと、俺も好きだよ」

…その“好き”は僕と違いますよね?
友逹としての好き、仲間としての好き…けど、僕は愛や恋の“好き”なんですよ?
決して彼はわからないと思う。
違う……僕自身がわかってもらおうとしてないんだ…。

「どうぞ」
「ほんっとありがと!」
「いえ…なんなら、全部あげましょうか?」
「へ?いーおいーお!こくおさんも食べてくらはいっ」
「ふふ……僕はいいですよ」

そう…彼のためなら、なんだってしてあげたい。
自分の弁当をあげるくらい、なんともない。

「あ、そだ…」
「?」

―ちゅ

「…!」

頬にひとつキスをされた。
太郎さんを見ると、屈託のない笑顔で僕を見つめていた。
こ、これって…?

「いつもありがとうございます!ほんのお礼みたいなもんです」
「あ…へ?…お、お礼?」
「はい、なんか外国とかではこうするみたいですね」
「は、はぁ…」

思わせぶりってやつですか?
でも…彼からのキスは忘れることができない気がする…。

(ありがとうございます…太郎さん。)





「…ふぅ、あとは平次にまかせるか」

平次を呼び出して、カウンターを代わってもらった。
僕はいつも通り、大蔵家の城に…。

「…あれ、太郎さん?」

店を出ると、外に太郎さんが座っていた。

「国土さん!待ってましたよ、ずっと」

まさか、昼からずっと?
何時間も…なんで?

「一緒に帰ろうと思ってたんです」
「え…そ、そうなんですか?」
「はいっ。行きましょうか?」
「は…はい」

まるで、彼氏が彼女を待っていたような…。
けれど僕たちはそんな関係じゃない…わかってる…。



『!だ、大丈夫ですか!?』
『は…腹へ…た…』
『ちょ、ちょっと!!』

『あんたすっげー優しいよ!』
『目の前で人倒れてるんだから、助けないのおかしいでしょ…』
『それでも感謝してますよ!俺、佐藤太郎っていいます』
『佐藤、太郎……僕は、国土豊です』



たまたま太郎さんを助けただけなのに、ここまで親しくなるなんて…信じられないな。
それが今では…僕は彼のことが好きになってしまった。

「国土さん?」
「は、はい?」
「いや…なんか元気ないなーって」
「いえ…少し、考え事を」
「何?なんか悩んでんの?」

悩んでるといえば…悩んでる。
けど、それを太郎さん本人に言ったらとんでもないことになるじゃないですか。

「大したことじゃないので…」
「ダメですよ!小さい悩みでも、誰かに話すと楽になるんですからぁ」

そう言われても。
これは自分自身で解決しなくちゃいけないことで、当の本人に打ち明けたとしたら、まるっきり意味がなくて…。

「ほーら!」
「………わかりました…驚かないでくださいよ?」
「?…なんで俺が驚くの?」
「……あ、あの…僕……た、たろ…」
「んー?」
「た、たた……たろ、さん…が………た、太郎さんが好きです!!」

勢いに任せて口走った。
ぎゅっと瞑った目をゆっくり開けると、太郎さんはポカンとした表情で僕を見つめていた。
そして―

「…うん、俺も国土さんが好きですよ」
「へ…?」
「昼にも言ったじゃないですか〜」

あ…やっぱりそっちの意味で。
なんか、恥ずかしい。
あれだけ緊張して言ったのに、太郎さんには別な意味で伝わってたんですね。

「あ……あはっ…はは……」
「ちょ、こ、国土さん?おーい。どこ見てんのー?」

今の僕には太郎さんは映ってません。
寂しげに光る月が見えてるんです。
お月様、もう僕をどーにでもしてください。

「…太郎さん、どこかでご飯食べましょうか?」
「え?は、はい…あ、でも俺、お金…」
「僕払いますから」





「お好きなのどうぞ」
「ほんとに、いいの?」
「構いませんよ…だって太郎さんですから」
「…?」

相手に伝わらなくても、片想いでも構わない…太郎さんを好きな気持ちは変わらないから。
でも、少しがっかり。
太郎さんって鈍感なんですね。

「じゃあ」

店員を呼び付け、太郎さんは何品か注文した。
僕はジュースだけ。
今は食べる気しない…。

「太郎さんって、誰にでも“好き”って言っちゃうんですか?」
「言っちゃうかも」
「そうですか…」

僕は何を訊いてるんだろう。
でもなんかそれってずるい。
友達関係と恋愛関係をごっちゃにするような言い方。
それってすごくずるい。
でも太郎さんだから、許せるのかも。

「あーでも…国土さんに言ったのは、ちょっと違う意味かも」
「え…」
「お先にお飲みものお持ちしました」
「あ、はい」

店員は僕にコーラを、太郎さんにはオレンジジュースを置いていった。
遮られてしまったけど…太郎さんの言ったこと、どういう意味?
確認のために訊いてみようとしたが、太郎さんはジュースにありついていた。

(ちょっと違う意味…?)





「なんか、すみません。おごってもらって…」
「いえ、気にしないでください」

あの言葉の意味はすんごい気になるけど。

「あ、ちょっといいですか?」
「はい…どうしました?」

急に近くの狭い路地に連れてこられた。
秘密にしておきたいことでもあるのかな?

「俺が国土さんに言った…好きの意味…もうわかりましたよね?
「え…それ、どういう…」

ふっと視線をあげると、目の前に太郎さんの顔が見えた。
優しく微笑む顔が、僕の心を穏やかにする。
そして―

「んっ…はっ、た、太郎さん…」
「ごめんね?国土さんが言ってた、好きの意味…気付かないフリしてた…」
「え…あ、ん」

またキスをしてきた。
これって…太郎さんが僕に言った“好き”は…僕と同じ?
けど、これが僕の望んでいた…愛?
何かが違う気がする。

「た、太郎…さん?」
「国土さん……愛してますよ」

両頬を太郎さんの手に包まれ、唇を再度奪われていった。
とても柔らかな太郎さんの唇。
ちょっとがさついてて、けれどとても心地よくて。

「た…あ…」

口の隙間から、顎を伝って零れる涎。
ぽたぽたと、太郎さんの服を掴む手に落ちていく。
嬉しいのか、悲しいのかわからないけど、涙も一緒に零れていた。

「ん、たろさん…」

服をがばっと持ち上げられて、僕の肌が彼の目の前に現れる。
少し見つめたあと、ゆっくりと僕の乳房を舐めはじめた。

「ん…あっ…や…」
「国土さん、こういうの好きそうですもんね」
「そ、そんなんじゃ……んぅっ」

親指で押しつけてきたり、ちょっと歯を立ててきたり、焦れったいというか…ただイジワルしてるだけなのか。
けれど、抵抗はしない。
なぜだろう。

―ちゅくっ

「んんっ…」
「これでおいまいですっ」
「は………太郎さん…ずるいです…」
「ずるい?」
「だって……こんなことするなら…最初から、好きって言ってくださいよ…」
「………」

すると太郎さんは僕の目尻を一舐めして、涙を取った。
そして優しい声で囁いた。

「ずるくてもいいです…俺の気持ちは変わりませんから」
「…っ」

思わず身震いがした。
そんなの、僕だって同じです。

「………抱いてて、くれますか」
「…うん」

ぎゅっと抱きしめられた。
こんなに優しく抱かれたのは何年ぶりだろう…。





「送りましょうか?」
「いえ……太郎さんにはお子さんがいるでしょ?もうお家に帰ったほうが…」
「そう…?…じゃあ、俺はこれで」
「はい」

太郎さんは振り返って歩きはじめた。
なんだかとてもあっけない。
これでよかったのかな。
彼を好きでいていいのかな。
彼も…僕を好きになっていていいのかな。

「……さようなら」

僕も振り返って歩きはじめる。
二度と会えないわけじゃないと思うけど、寂しい。





その後、太郎さんが僕の所に来ることはなくなってしまった。
これで、よかったのかもしれない。
望まない愛なら、いっそ捨ててしまえば―



「国土さん!」



高らかに僕を呼ぶ声がした。
振り返ると、そこには―





END








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ひかるさん、いつもリクありがとですっ
たろこく、いかがでしたか?
いつもよりえろちっくではありませんでしたが
二人の呼び方が難しいですね
一応どっちも「さん」付けでしたが…
そしてクライマックスがシリアスになってしまいました……し、しかし、こういうのもまたいいのでは!?
管理人、パニックです(@∀@)

えー、それではこのへんで…
(管理人コメントをもっと短めにしようね!←自爆)

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