小説部門

□背伸びして、キス。
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  背伸びして、キス。2



 ああ、きっとこれからも一生こ奴にしてやられるのだ。




 「へー。そんないいとこまで行ったんだな剣道部。そのまま全国大会行けちゃうんじゃねぇか?」「ばっ!!たわけた事を言うな!今回は運が良かっただけだ!」「朽木は謙虚だなぁ」
 高校からの帰り道。ルキアは“暗いから送ってってやるよ”と言われて、同じクラスの男子生徒・恋次と帰り道を歩いていた。ルキアは暢気に何も知らずに隣を歩いているが、恋次は内心ドキドキしているのには全く気付いていない。あわよくば告白しようと思っている事も、知らない。
 「くくく、朽木!!ちょっと寄り道していいーーー」「ルキアー!!!」
 意を決した恋次の言葉に割り込むように聞こえた声。後方から走ってくる足音。そしてその人物は、わざわざ二人の間に入ってきた。恋次の顔が、一気に曇る。
 「わぁ!一護、びっくりさせるな!今日はカラオケに行くのではなかったのか?」ルキアは驚いたように学ランを着た少年・一護を凝視する。「・・・とゆーか息が荒いぞ?走ってきたのか?!」
 すると一護は恋次を睨み、見せ付けるようにルキアの小さな肩を引き寄せた。“こらぁ!”と暴れるルキアの反応も、気にする事無く。
 「・・・まぁな。ルキア今日帰り遅いって言ってたろ?だから時間潰す為に啓吾達についてっただけ。ルキアがいない時間なんか・・・意味無ぇし」
 平気で一護はこういう事を言う。特に、他に男がいる時だ。急激に近くなった一護から言われると、昔から言われ続けてきた事とはいえ照れてしまう。
 「・・・じょ、冗談を言うな!それとくっつくな!皆見てる!!」
 「別にいーじゃん見られても。どーせこれからそーゆー仲になるんだし」「はぁっ?!」「だーかーらー。ルキアの身長越えたって言ってんの。ほら、この前の身体測定の結果!」
 ずずいと眼前に突きつけられた丈夫な紙。一週間程前に既に測定結果は知っていたが、ルキアは信用ならないと証拠を求めた。そして担任教師との交渉の末に証拠を持ってきていたのだ。
 『くっ・・・何と律儀な・・・』面倒臭がりの一護の事だから、持って帰ってこないと踏んでいたのだが・・・どうやら読み違えたらしい。
 「ルキア、覚えてるよな?」
 ―――来た。一護の意地悪な声が耳元でする。
 覚えていない訳ではない・・・小さい頃の、約束。一護は小さい頃からちゃっかりしていて、約束事みたいな物まで作らされた程だ。きっと今も持っているのだろうが。"俺の身長がルキアの身長を越えたら結婚を前提に付き合う“――――――。了承した私も、バカか。
 そうもやもやと考えていると、一護の鼻があと三センチに迫っていた。
 「ぎゃあ!!近いわたわけ、離れろぉっ!!」「んー?早速一線越えようかと思って」「越えんでいい!伸びたのは分かったからとっとと帰るぞ、一護!!」「へいへーい」「わっ!」
 目線はほぼ同じの一護に手を引っ張られ、少し街灯で照らされただけの夜道をさっさと歩いてゆく二人。背後で茫然と一人取り残された恋次の存在も忘れ、二人きりで。
 「くそ・・・あの餓鬼・・・・・・!」小さく噛み締めた言葉を、二人は知らない。
 



 「い!い一護、離せぇ!引っ張られなくとも帰れるわ!」「・・・ちょっとこの頃冷たくねーかルキア。俺は焦ってるってのに」「えっ?」
 家にはまだ遠い歩道で突然足を止めた一護。突然だったので彼の後頭部に顔面をぶつけて痛い思いをしたルキアは、怒ろうとした。だが少し見えた一護の頬が赤い事に気付いて、怒れなかった。
・・・照れて、いる・・・?あの一護が・・・?!
 「ずーっと焦ってんだよ。ルキアもう大学だろ?出会いの場も増えるし・・・だから、俺の事見てくれなくなるんじゃねーかって」
 「・・・一護・・・」ルキアは名を零す。
 突然、二人きりになると人が変わったように一護は何というか、“大人”になる。二人きりの時こそ自分を見て欲しいと、そう言われているみたいで。顔を背けようと上を見たら、丁度一護は一段高い所にいた。丁度、目が合う。少し恥ずかしくなる。
 「・・・何故そんな所にいるのだ?」気になって、問う。
 「うん、まぁ・・・シュミレーション。俺将来こんぐらいになるからな」「まぁまだまだ育ち盛りだからなぁ・・・それにしても高いな」「そーだよな。だから、俺がしゃがんでルキアが背伸びしたら・・・丁度いい」「・・・何に?」「知りたいか?ルキア」
 一護は少しかがんでルキアの頭上まで顔を伸ばす。“早くしろよ”と言いたげな顔をしているので、ルキアは仕方が無いと踵を少し上げたところで・・・はた、と気付く。
 ―――何かがおかしい・・・ルキアは勢いよく後ずさり、高い所にいる一護から離れた。
 「・・・お、気付いた?」にやりと、でも悔しそうに言う一護。
 「いつまでも私を舐めるな、一護!!このまま流れでするつもりだったのだろう!!」「おー正解。賢くなったな」「当たり前だ!中学生の餓鬼が大学生でお・と・な・な私をからかおうとするな!!まったく、子供の考える事はいつまで経っても同じだな!!」
 はははっと笑ってやるルキア。しかし上手く笑えない。心臓の鼓動が止まらない。それをきっと、一護は悟ったのだ。
 「へー・・・ルキアだって子供じゃねーか。顔赤いぜ?」
 完全に笑いを抑え切れていない彼、ますます赤くなる彼女。
 「〜〜〜っ!!たわけっ!!」ルキアは拳を作り、固く握り締めて力いっぱいに叫ぶ。まるで子供のように。「こっ・・・こうなったら・・・!一年待て!一年後に私が貴様の背を越えてやるからな!!そのバカにする面をへし折ってやる!!」
 「・・・いやいや、それは無謀にも程があるだろ。だって俺まだ伸びるし」「越えると言ったら越えるのだ!!」「じゃあ無理だったらルキアからキスな。めいいっぱい背伸びしてやってもらおうかなぁ」「のっ・・・望むところだ!一年後を楽しみにしているがいい!」「ああ、楽しみにしてるぜ♪」
 ―――笑っておるぞ、一護の奴め。自分が負ける訳無いと踏んでおるのだな、嫌な奴め。
 だが貴様の思っている通りにはさせぬ!私はこの勝負に勝って、“私の方が大人なのだ”という事を分からせてやる!覚悟しておけ!
 だから神様仏様・・・あと五センチとは言わぬからせめて一センチだけでも伸ばしてくれ・・・!!頼むから・・・っ!



 一年後、どっちが勝ったのかは皆の予想通りだろう。

 END

 
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