小説大会

□君の名を呼ぶ
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雪が舞い散る夜空


二人寄り添い見上げた


繋がる手と手の温もりは


とても優しかった






『深愛〜君の名を呼ぶ』





「はぁっ…はぁっ…」


ルキアは白い息をはきながら、長い坂道を上っていた。
いつもは何でも無い坂道が、今日だけは足取りが重い。


「……ゆ…き…だ」


少しばかり汗の滲むルキアを冷やすかのように、雪は舞い降りてきた。

思わず泣きそうになる自分に慌てるルキア。


駄目だ。

駄目だ。

泣いては駄目だ。






『あの木の下で待ってる。ずっと。』



そう書いた紙を小さく折り畳んで、一護の机のちょっと端の方に置いておいたから。
だから…約束を破るわけにはいかなかった。




「…着い…た…っ…」


やっとの思いで辿り着いたルキアは、すぐにその場に崩れ落ちた。
乱れる呼吸が中々整わない。


「ねぇ……早く…」


いくら手を擦っても、はあっと息で温めても、一向に解消されない手を胸の前で握り締めた。


「…早く今ココに来て」








「…………雪か…」

目を覚まし、窓からちらりと光るものに気付き、ベッドから起き上がって見てみると。
空からは雪が…。
辺りを見ると、だいぶ降り積もっていた。


「…………」


思う事は一つ。
想い出す人は一人しかいなかった。
しかし…知らない振りをした。
もう、あいつを知るやつは誰一人居ないから。


駄目だ。

駄目だ。

終わったんだ。何もかも。




「俺自身も、この世界も。全部…。会う資格も、恋する資格もねぇよ…」

一護は冷たい床に足を伸ばし、机の椅子に掛けておいたコートを取り、外に行こうとした。

その時、何かが光った気がして、思わず振り返る。


「…何だ…?」


机の上を見回しても、光っているものなど何も無い。
「気のせいか」と再び背を向けると、また何か感じる。


一護は手を伸ばした。


「これ…か…?」


小さく小さく折り畳まれた紙。
捨ててしまっても仕方なさそうなくらいの紙。



開いてみると、そこには震えた弱々しい文字が並べられていた。








「はっ…はっ……」


積もる雪に足を取られながら、それでも力の限り速く走った。

辿り着いたのは、あの木がある場所。


辺りを見回す。

しかし、人はやはり誰一人居ない。

この一面真っ白な世界。
誰か居れば分からないはずがない。



「…だよな。居るわけないか…」


あいつが居る…そう一瞬でも真に受けた自分に笑いが零れた。

そう思い、戻ろうとしたのに。足は木の方に向かっていた。
一護の鼓動は段々速さを増す。


駄目だ。

駄目だ。

行っちゃ…近づいては…。



回りより少し厚みのある場所で一護はしゃがみこんだ。
震える手で、そっと、少しずつ…雪をどかしていった。









「……ルキ…ア…?」








どこかで見覚えのある黒い髪に、思わずそう言ってしまった。

“嘘だ…”

そう必死に思いながらも、雪を掻き分ける速さは増していた。




「…る…ルキア…!!!」


雪に埋もれ、横たわっていたのは紛れもなくルキアだった。

一護は抱き上げて、強く強く抱き締めた。


ルキアは…氷のように冷たくなっていた。




「…嘘だろ…?」

「…………」

「おい、馬鹿な真似はよせよ…。んな冗談…してる場合じゃ…」


一護の両瞳からは、熱い涙が溢れた。




『一護…』



「えっ…?」

空耳だろうか…ルキアの声が聞こえた。
しかしそれは空耳なんかでは無かった。



『…一護、来てくれて…ありがとう』

「ルキア!?え…ル……」

次の瞬間、一護は耳を疑った。



『これを聞いてるお前は、私に触れていて。そして…私はもう居ないんだろうな』

「……はっ…?」

『一護に伝えたい事があったのだが…私も…もう駄目みたいでな。最後の力を振り絞って、なんとか残しているのだ…』



今、抱き締めているルキアの口は全く動いていない。
ルキアの声が一護の体に流れ込んで響いている感じだった。
錯覚だろうが…ルキアの体が少しだけ温かくなった気がした。



『一護に会えて…本当に良かった。楽しかった。…恋が出来て嬉しかった…』


(俺もだ…)

『辛かった…一護と別れるの。本当は嫌だが…私達は許されない関係だからな…』

(…………)

『でも…やっぱり……一護の事…嫌いになんてなれない。だから…ずっと…想ってていいか?』

(……ルキア)

『なんて。返事なんか聞けるはず無いのだが…………』


ルキアからの声が途切れた。
その瞬間、一護は突然怖くなった。




『すま…ぬ……そろそろ…力も上手く…』

(ルキアっ…ルキア…)


『泣いてるか…?いや、一護は泣く奴じゃ無かったな…』


一護は…無数の涙を落としていた。



『まあ、そんな意地っ張りな一護がまた好きなんだが。…っ……また…会えるよな?…きっと』

(行くな…!ルキア…行っちゃ…)

『私は……一護に抱き締めて貰えて…幸せだ…。お前に…伝えたかった事…』









『ごめんね』









再び舞い落ちる雪。

それに導かれるように…


ルキアは光る雪になって消えた。





「ルキア…なんで謝るんだよ!どうして謝って…!!ふざけんなよ…!」


一護はルキアの服を抱き締めた。
ルキアを抱き締めているかのように…。



「俺…泣いてるよ…。ごめんな…お前の好きな強い俺で居られなくて…」







「大好きだ。ルキア…大好き。愛してる。好きだ…ルキア…ぁ…」



『……ありがとう』









俺は何度も彼女の名前を呼んだ。





*END*

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