小説大会

□君の名を呼ぶ
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きらきら きらきら
星が輝く聖なる夜に
ちらちら ちらちら
ただ一点を祈るように見つめては
そわそわ そわそわ
立ち上がったり座ったり
どくどく どくどく
鳴り響いて止まない自身の心臓
堪らず強く結んだ両の手を、願うように握った時
ゆらゆら ゆらゆら
舞い降りたのは純白いろした粉雪と───


first job

ガラリと開いた扉の先は、白い壁、白い床、白いカーテン、白い棚..まるで雪景色の中にいるようなその空間にたった一つ、白いベッドから除く漆黒。
そこへ向かって、さして長くない道をこつこつと最小限の靴音を鳴らして近付いていくと、安らかな呼吸を繰り返していた眠り人(ねむりびと)の閉じていた瞼がぴく、と反応し、やがて瞼の奥に隠れていた紫の瞳がゆっくりと姿を現した。
「...見たか?」
見慣れた橙色の髪と薄茶の眼を視界に捉えると、自然緩んでしまう頬に笑みを浮かべながら問う。
「...見た」
「一番可愛いかっただろう?」
「あぁ」
珍しく素直に肯定する夫がおかしくて。嬉しい気持ちがじわりと広がっていくのがわかった。さっきまでの言い知れない痛みと疲れが何処かへ飛んでいきそうなほどだ。
「...オレンジ、だったな」
まだうっすらながらも生えていた髪の色はまさに自分と同じ。窓越しに見た瞬間、ただただ純粋に恥ずかしく、それ以上に嬉しく、感動を覚えた。
「当たり前であろう。貴様の子供なのだからな?」
「......。」
さっきからずっと微笑みの耐えない妻の他意のない言葉は、けれど何だか素直には喜べなくて。棚の隣にあった白いイスを、ベッドの丁度相手と向き合う場所に持っていき、腰を下ろした。
「"貴様の"じゃなくて...」
「?」
なんだか今日の自分はらしくないと実感しながら、漆黒の髪を撫でながら囁くように訂正。
「"俺たちの"だろ?」

「っそう、だな」
一護から漏れた言葉はルキアの胸に吸い込まれ、この人と想い合えた自分は、なんて倖せ者だろうと改めて思った。
つい数十分前、新しい生命の声を真の当たりにした時にあれだけの涙を流したのに、また視界がにじんでゆく。全く、"涙が渇れる"なんて大嘘だ、と思う。
「......それで、さ...」
「...なんだ?」
見つめ返した瞳は今度は重ならず、言葉を濁す相手はあちらの方を向いて"あー"だの"そのー"だの言っている。
「...何なのだ?」
問い返すも、また曖昧な返事をぶつぶつと繰り返すだけ。
そんな中々煮えきらない相手に、元より気の短かい性格も重なって苛立ちが募る。
「〜〜っ云いたい事があるのなら、早く云」
「ありがとな」
「......え?」
やっと聞けた台詞は意図の掴めない言葉で。大きな紫水晶がぱちくりと瞬く。
「...あー、だから、な...頑張って、"俺たちの子供"を生んでくれて、"ありがとう"...ってこと!」
そう言って普段はなかなか見せない優しく微笑んだその顔は、僅かに赤く色づいていて。懸命に流すまいと努めていた滴が再度視界を大きく揺るがす。
「...馬鹿者。っ人が折角...堪えていた、ものを...」
今度はもう逆らえず、瞳に揺らめく光が宿り、一筋、二筋と頬を伝う。
「...なきむし」
「ゃ、ゃかましいっ。貴様が..そんなっ事を、云う、っから」
一度切れた涙腺はそう簡単には止まらず、すぐには治まりそうもない。
「...泣くなよ、、な?」
幼子をあやすような優しい声音を響かせながら、妻の瞳から流れる大粒のそれを指でなぞり、そっと拭ってやる。
それでもひっく、ひっくと唹咽を漏らす妻。いつの間にか自分に対してここまで弱気な姿をさらけだしてくれるようになったんだなと、また近付いた距離を感じて嬉しくなる。
そう思うと霧消に眼の前の相手へ、表現の出来ないほどの想いがより一層強くなり、堪らなくなった。
「......ルキア」
今まで照れ臭くて一度も伝える事はなかったけど、今は言えそうな気がする。ずっと感じてる、この詞(ことば)。
自分を見つめる、まだ少し濡れている大きな瞳と向き合い、小さな呼吸を一つ。
「...ぁ......あ、い」
「一護?」
「......あい......し.........」
あと一歩なのだが、どうやらこれ以上は限界だと悟る。先より大きい息が漏れた。

「...どうした?」
「......やっぱ、ガラじゃねぇんだわ」
「?何がだ?」
情けない。けど、これでいいのかもしれない、とも思った。
口にださなくても、固く繋がった糸がある。それは決して切れる事はない。
一護が一護であり続け、ルキアがルキアである限り。
「...俺等はずっと、"このまま"でいいんだよな」
「......あぁ。そうだな」
少し疑問が残るけど、追求は止めた。何と無くだけど分かった気がしたから。
甘く温かな空気にどちらともなく手と手が触れ、絡めるように握り締める。
「これからも、よろしくな、お母さん?」
「仕方ない、よろしくしてやろう、お父さん?」
不敵な笑みを浮かべる妻に同じように返して、自然と寄り添った身体を抱き締め合った。
これからもたくさんの問題、困難があるだろう。でも、互いがいれば何も怖くない。
「早く、考えてやろうな」
「あぁ、そうだな」
そして新米の夫婦がまず最初にすべき大事な大事な仕事。
いっぱい悩んで、いっぱい考えて、いっぱい話し合って。そうして見付けた最高のそれを、これから一生を懸けて注ぐ愛情にのせて
何度も言おう、
何度も口にしよう、
何度も呼ぼう、

きみの名を…


           fin

**"きみの名"は一護xルキア=>"子供の名前"にしました。
未来設定だし、お題にそぐわないような..色々ムリヤリ感が否めませんが;;想いだけはたっぷりと込めたつもりです!!
素敵な企画にお邪魔させていただき、ありがとうございました!!!**

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