小説部門
□小さな背中を
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「寒っ!!」
家から出た瞬間、マフラーをすり抜けて伝わってくる寒気に思わず首をすくめた。
このマフラー、昨日貰ったばっかのクリスマスプレゼントなんだが、如何せん編み目が荒過ぎる。
ぐるぐる巻きにしたって首がスースーして仕方ない。
幼稚園児の落書きみたいなあの絵と一緒で編み物も最悪に下手くそだ。
おまけに毛糸の質が悪い。
どうせまた粗悪品でも掴まされたんだろう。
これだからお嬢様育ちはダメだ。
……――いや、嬉しくないわけじゃないんだが、むしろものすごく嬉しいんだが。
「たわけ!このくらいの雪で何を言っておる」
対するルキアは寒さなんか全く気にならないようだ。
頬や指先を真っ赤にしながら、嬉しそうにはしゃいでいる。
これから井上やたつきと雪合戦をするとか言ってた。
どうせ俺や石田なんかも巻き込まれるんだろう、と目を輝かしながら俺を誘ってきたアイツに覚悟を決めた(正確には負けた)のは一時間ほど前だった。
少し前を歩く小さな背中は意気揚々と公園へと向かっていく。
いつからだろう。
ルキアの背中を小さいと、か細いと感じるようになったのは。
初めて会った時は俺達を守るように――いや、俺達を守るために、そこにいた。
尊大で、意地っ張りで、ほんの少し悲しげで、それでもただ強く、そこにいた。
色んなものを背負って、傷付いていた。
俺はそれに気付くことも出来ないままに、何度も守られ、そして救われた。
いつのまにか、その背中はこの雪に溶けてしまいそうな程儚く見えるようになっていた。
守ってやりたい、守りたい、何があっても必ず守りぬく。
あの頃から比べて、確かに俺は強くなった。
でも、コイツだって多少は強くなったはずだ。
多少のことじゃ守られる必要もないだろう。
それでも守りたい。
今度こそ俺自身の手で。
「ルキア」
「なんだ?」
立ち止まって振り返るルキアの隣りに並べば、その小ささをまた実感する。
「なんでもねえよ」
「なんでもないとはなんだ!」
「呼びたかっただけだ」
「妙に隠すな、気にるではないか」
「……手、繋ぐか?」
照れながら差し出した俺の手を、少し驚いた顔をしてから返事も無く握り返す。
「一護」
顔を見上げて自分の名を呼ぶ声に込み上げる愛しさは、自分でも信じられないほど大きい。
「なんだ?」
「……ほらみろ、気になるだろう」
「だから言ったじゃねーか、呼びたかっただけだって」
「名前などいつも呼んでいるではないか」
そう言ってルキアは、このきらきらした雪みたいに綺麗に笑った。
(首もとを通るの風は冷たいけれど、心はこんなに暖かいから)
(今この笑顔以上に大切なものがあるはずないんだ)