小説部門

□笑顔になぁれ
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「ルキアっ!」



もうすぐ日付が変わってしまうというのに、ルキアは家に帰って来ない。
一護は心配して、ルキアの携帯にメールや電話をするも…応答無し。

益々心配になった一護は、気が付いたら家を飛び出していた。
どこにルキアがいるか分からないけれど…それでも走った。


いつもは気にならない事も、今日だけは気になった。

何故だろうか。




「…ほーととぎーす……はやも来、鳴きてー…」


キィ…と音を鳴らしながらルキアは、小さな明かりがぽつりと灯る公園のブランコをこいでいた。
そして口から紡がれるのは季節外れの唄。


「…しのびね…もらすー…」




「ルキア!!」


その時、大声で自分の名を呼ばれ振り返った。

公園の入り口には、一護が肩で息をしながら立っていた。


「どうした?そんなに急いで…」

「はあ!?どうしたじゃ…ねえだろ…!」

「………」


ルキアは再びゆっくりブランコをこぎ出した。



「携帯に何度連絡しても、返事はねえし…」

「………」

「こら!聞いてんのかよ!心配したんだぞ!?」

「うん…ありがとう」



ルキアは返事をするが視線はずっと空を見つめたまま。
一護はため息を一つつき、自分も隣のブランコに座った。


「お前…最近、何かあったか?」

「何故だ」

「その…なんて言うか…」


なかなか笑ってくれない…。
一護はなんとなくそう感じていた。
気のせいかもしれないし、そうではないかもしれないし。
近くに居るから…微妙な変化が嫌でも分かる。

一護的には、分かる事が出来て嬉しかったりもするのだが…。



「最近のお前…どっかに消えそうな顔…してるからさ…」

「はっ…何を言うかと思えば。そんなわけなかろう!私に行くあてなど無いのだから…」

「じゃあ何で元気ねえんだよ…」

「私にだってこういう気分の時があるのだ」


二人の会話は途切れ、静寂の中にブランコが揺れる音が、異様に響いた。
そしてルキアはまた唄いだした。


「さみだれーのそそぐ山、田に…さーおとめが…」

「……裳裾濡らして」

「ん…知っておるのか?」

「まあな。でも…この歌は夏の歌だろ?」


ルキアはやっと一護の方に顔を向けていた。


「…好きなのだ、この唄が」

「ふーん…」

「………」

「続き…歌ってくれよ」


ルキアは正面を向き、静かに歌い出した。


「早乙女が、裳裾ぬらして…玉苗植うる…なつ…は来ぬ……」


ルキアの透き通る綺麗な声は、とても気持ちが良かった。
夜空に顔を覗かせるもの達も、どこか笑っているようで、二人を祝福していた。

ルキアの顔も少し和らいでいた。



「良かった…やっと笑ってくれたな」

「えっ…」


一護は立ち上がりルキアの前に立った。
ルキアもブランコをこぐ足を止めた。


「ルキアが好きな事をもっとやって…もっと笑ってくれよ」

「………」

「俺はどこまでもお前について行くからさ」

「一護…」


一護はニッとルキアに笑って見せた。
ルキアの視界はだんだん霞んできた。

そして一護は気が付いたらルキアを包み込んでいた。



「ルキアの声…すごく綺麗だな」

「ありが…とう…」

「何か俺に出来る事あったら言ってくれよな」

「…こうして探してくれただけで…嬉しい」


ルキアが立ち上がろうとしたので、一護もルキアを離し立ち上がった。
するとすぐにルキアは一護に身を委ねてきた。


「少し…こうしてても良いか?」

一護を見上げるルキアの瞳は少し濡れていた。
一護は抱きしめて「ああ」と一言告げた。




寝静まった夜道を二人は人目を気にする事なく、手を繋ぎ歩いていた。


「あったかいな…一護は」

「馬鹿…お前が冷たすぎるんだよ」

「知ってるか?手が冷たいのは…心が温かいからなのだぞ」

「つか…それ自分で言うか?」

「なっ…良いだろう!本当の事だからな…!なんてなっ」


クスクスと笑いあう声が静かな夜に彩りをもたらした。
小さな幸せも大きな幸せなんだ。
他愛のない事でも笑いあえる仲でいたい。
どんな事でも力になるから...


笑顔になぁれ




「卯の花の、におう垣根に…ほーととぎーす、早も来、鳴きて…



忍音…もらす




…夏…は来ぬ…」







*END*

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