小説部門

□ねぇ、眠ってよ
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ねぇ、みんな
どこに向かっているの?








ねぇ、眠ってよ









「何だ、これは」




一護は部屋に入った瞬間、思わず声を上げた。
ここは紛れもなく黒崎一護の部屋で、自分は黒崎一護なのだからこの部屋の主は自分で間違いない。

それなのに、どうしてこの部屋は真っ暗で、そして冬だというのに窓が全開で、居候の小さな死神はその窓に噛り付いているのだろうか。





「明かりをつけるな。」





電気をつけようとした一護の動きを、きっぱりとしたルキアの声が止めた。
そんな彼女の声に従って、一護は明かりをつけることなく、自身の部屋に足を進め、ベッドに腰を下す。
今まで明るい所にいた一護の眼は、なかなか暗闇になれることはない。





「何をしているんだよ。」

「ん?屋内ぷらねたりうむ。だ。」

「プラネタリウム…?」

「あぁ。」





やっと暗闇に眼が慣れてきて、一護はベッドから腰を上げ、窓にかじりついているルキアの側に寄る。
そして、同じように空を眺めた。





「貧弱なプラネタリウムだな。」





見上げる空に星の姿は殆ど見つけることは出来ない。
夜を忘れた町の沢山の強い光、それらの光に弱い天然の光は負けたのだろう。






「そもそも、プラネタリウムは天然の星じゃねぇし。」





プラネタリウムとは天然の星でするものでも、屋外でするものでもない。
二重の意味で間違っている。





「確か、特別なところに行くのだろう?」

「行きたいなら今度連れて行ってやるよ。」




ずっと開けていた窓から、冬の寒い空気が入って来て、部屋は随分と冷えている。
もういいだろうと、窓を閉めようと一護が手を伸ばした時、また、ルキアの声がそれを止めた。





「いや、私はこれでいいのだ。」

「星が見たいんじゃねぇのかよ。」

「あぁ。」

「だったら、こんな貧弱な星よりプラネタリウムの方が良いだろ?」

「作られた星など見て、一体何になるのだ?」





今まで、ただ空を見上げていて、一向に自分の方など見なかったルキアの瞳を急に真っ直ぐに受けて、一護は息を呑んだ。





「人工の星など見て何の意味がある?人工の星など、ここで天然の光を殺しているものと同じ物で出来ているのだろう。そんな偽物などを見て、星を見たと言えるのか?」

「…それは……。」





ふっと視線を逸らして、再び空を見だしたルキアの姿を見て、一護はひっそりと息を吐いた。



まさか、あんなことを言われるとは思わなかった。
確かに、星が見たいと言っているルキアをプラネタリウムに連れて行くのは間違っているのかもしれない。

プラネタリウムは、本物の星を見るための勉強をする場所でしかないのだから。





「人は、どこに向かっているのだろうか。」

「さぁな。」





自身の利便さだけを追及し、進んできた自分たちがどこに向かっているかなど、一護には分からない。
いや、本当に分かっている人間などいないのかもしれない。





「無くしてから気付いても遅いのに。」

「そうだな。」

「今の人間は、空を見上げることなどあまり無いのかもしれん。」

「あぁ。」

「それは、見える空が貧弱で小さいのが原因なのかもしれない。それでも、ここまで追いやったのは己自身なのだから星が見えぬと嘆き、目を逸らすことなど赦されない。」





ぴとりと自分の肩に頭を預けたルキアの旋毛を見て、一護は考える。
150年も死神として現世に来たりしていた彼女には、今の世の中の変化はどのように見えているのだろうか。


昔、見たであろう、沢山の天然の光を、まだ見ることが出来る場所があるということを、近々教えてやろうと思った。










人はそれでも
自身の歩んで来た道が間違いだったのかと考えだしているのだ。










***END***
都会では星が見えないと、嘆いたあなたへ






2008/12/02 夜乃紅花

 

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