小説部門

□幸
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トントンと階段を上り二階の部屋を目指す。
鼻歌交じりに軽やかに。
今日は些か気分が良い。
それは取るに足らない、酷くつまらないことだけど、とても天気が良いという他に理由はなかった。
階段を登りきり目当ての部屋のドアノブを回す。
勿論ノックはしない。
それが私たちの間柄だから自然とそうなっていた。

「コラ、またそんな格好をして…」

入室一番目に入ってきた一護の格好に眉根を顰める。
端的に言えば、半裸。
暖かくなってきたとはいえまだまだ寒いというのに。

「…風邪を引くぞ」

「引かねえよ
お前じゃあるめえし」

ルキアの言い方が気に食わなかったのかムッと眉間の皺を深める。

「それに着替えてただけ」

「む…何だその言い種は
私は親切心からだな…」

「事実を述べただけだ」

ベーッと舌を出し挑発的な視線を送る。
しかしそれにカチンときたルキアが言葉を発する前に一護が言葉で制した。

「で、何だよ」

そう言い服を着ようともせずベッドに腰を下ろす。
ルキアはフウとため息をつき自身の抱えていたものを一護に見せた。

「ホレ」

そうしてパサッと放ってやる。

「持ってきてやったぞ」

「おっ」

ルキアの手に抱えられていたのは一護のベッドのシーツだった。
遊子が洗濯をするからと朝から消えていたものが返ってきた。

「サンキュー」

素直にありがたく受け取りニカッと笑う。
いそいそとシーツを広げ始める一護の隣にルキアが立つ。

「シーツも干したてだとフワフワなのだな」

そう言い広がっていくシーツをもふもふと触る。
さっきまで抱えていたからか少し名残惜しそうにシーツを触るルキアを見、一護の頭上に何か思いついたのかペカッと電球が光る。

「こうすりゃもっと気持ちいいぜ?」

グイッとルキアの腕を引きベッドに座らせ自身は膝立ちになる。

「わっ」

フワアッ。
二人の上にシーツが広がりパサリと落ちる。
一瞬の陰りの後に落とされた純白の布はまるで二人を包むかのように覆っていた。

「な?」

そう言い満足そうに笑う。
そんな一護にビックリして一瞬声も出なかった。
何が、気持ちいいだ。
嬉しそうに笑いおって。
せっかく遊子が洗濯したのだぞ。
私だって運んでやった。
なのにそんな…。
ああ、本当にお前という奴は…っ。

「そうだな」

ドキン。

あまりの彼の純粋さに思わず目を細め笑う。
本当に愛しくて、愛おしくて、狂おしい。
私の、好きなヒト。

「一護?」

「うえ?あ、ああ…」

曖昧な返事をしカアアッと顔を朱に染める一護に首を傾げる。

「?」

ドキンドキンと心臓が煩い。
落ち着け心臓。
自分でもわかるくらい頬が蒸気している。
でも、仕方ない。
…っとにお前って奴は…っ。

「ルキア」

ちょいちょいと手招きし近寄らせる。

「?」

しかしそれでも焦れったいのかグイッと半ば強引にルキアを抱きしめた。

「キャッ」

ドキンドキンと高鳴る心臓。
あー…ヤバい。
凄えな、コイツ。
やっぱ好きだ。
だから柄にもねえことが口から出たのかもしんねえ。
でも、ただ伝えたかった。

『お嫁さんみてえだ』

その一言を、抱きしめて、額を合わせて、視線を絡めた彼女に囁く。
甘く、低く、切なく、そして幸せそうに。

「…っ///」

今度はルキアが顔を赤くする番だった。
カアアアアと朱に染まる頬と照れで潤まる瞳も今は仕方ない。

「たわけ…っ」

それだけ言って彼の胸に顔をうずめた。
驚いた。
恥ずかしかった。
でも、ただ純粋に幸せを感じた。
彼の言葉は魔法の言葉。
いとも簡単に私を私じゃなくする。
でも…

「アリガト…」

それでもいいかと思えてしまうんだ。
どうしようもなく貴様に惹かれているから。

「好きだよ」

どちらともなく身を寄せ合い、口づける。
至極当然のように。
そこにはただ、幸せが。
後に残るのは甘い蜜のような時間と、幸せの、香り。
二人だけの…幸せの、時。

fin

 

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