小説部門
□午前1時のひめごと
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誰も知らない、秘密の時間。
二人だけの、愛しい時間。
もっと、私に触れて…。
*
こっそり、部屋を抜け出す。
本来のその空間の主たちを起こすことのないように。
物音一つたてないように。
僅かな衣擦れの音だけは仕方ないと諦めながら、薄暗い部屋から、外の廊下へと出る。
冷たい空気が漂っていた。
「さむっ…」
思わずそう呟く。
床が、ひやりと冷たい。
静かに静かに、ドアを閉める。
カチャリ。
そこで一度、ふうと息を吐いて。
目的の部屋へと向かう。
静寂に包まれた家の中。
時刻は、深夜一時を回っていた。
コン、と小さくノックをする。
鍵がかかっていないことは、分かり切っていたのだが。
「開いてんぞ」
案の定、部屋の中から声が聞こえた。
私は、ゆっくりと扉を開ける。
薄闇の室内で、声の主は寝台の上に座っていた。
「来ると思った」
うっすらと笑みを浮かべて、幾分得意げに、彼――一護は言った。
私が来ることを、最初から予期していたかのように。
真夜中の訪問の理由を、聞くことはしない。
私が一護の元を訪れるのは、これが初めてではなかった。
初めの頃は、“寒いから”だの“眠れないからなんとなく”だの、もっともらしい理由をつけて、此処に来ていた。
けれど、最近は――…、理由なんて、あってないようなもので。
「こっち来いよ」
琥珀色の瞳が、挑発的に誘う。
私は素直にそれに従う。
そう。
私は結局、彼に会いたいだけなのだ。
彼に、触れたいだけ。
彼に、触れて欲しいだけ。
こうして、私たちが密かに夜に逢瀬を重ねていることを知る者は、いない。
二人だけの、秘密。
その事実は、私を心底、興奮させた。
寝台に腰掛けると、後ろから一護が私を包み込む。
「ルキア」
耳元で、それも低い声で囁かれ、私は身体を震わせてしまう。
「手、冷たい」
「え?」
そうか?と首を傾げると、そうだよと即答された。
ちゅ、と指先に口付けられる。
一護の唇は、いつもより些か、熱を帯びていた。
「あっためてやるよ」
「手だけでは済まないのだろう?」
振り返りそう言ってやると、一護は少しだけ考え込む素振りを見せた。
「それは、オマエ次第」
「…ふ、狡い男だ」
小さく笑った私の声は、その狡い男の唇に呑み込まれた。
「一護…」
私は目を閉じて、彼の背中に腕を回す。
そして、全てを委ねた。
*
漆黒の闇夜に、同調するように、私たちは交わる。
静かに、けれど燃えるように激しく。
時に、むせ返るような甘い睦言に溺れながら――…。
end