小説部門

□午前1時のひめごと
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誰も知らない、秘密の時間。

二人だけの、愛しい時間。



もっと、私に触れて…。







こっそり、部屋を抜け出す。
本来のその空間の主たちを起こすことのないように。
物音一つたてないように。

僅かな衣擦れの音だけは仕方ないと諦めながら、薄暗い部屋から、外の廊下へと出る。
冷たい空気が漂っていた。

「さむっ…」

思わずそう呟く。
床が、ひやりと冷たい。
静かに静かに、ドアを閉める。
カチャリ。

そこで一度、ふうと息を吐いて。
目的の部屋へと向かう。

静寂に包まれた家の中。
時刻は、深夜一時を回っていた。



コン、と小さくノックをする。
鍵がかかっていないことは、分かり切っていたのだが。

「開いてんぞ」

案の定、部屋の中から声が聞こえた。
私は、ゆっくりと扉を開ける。

薄闇の室内で、声の主は寝台の上に座っていた。

「来ると思った」

うっすらと笑みを浮かべて、幾分得意げに、彼――一護は言った。
私が来ることを、最初から予期していたかのように。



真夜中の訪問の理由を、聞くことはしない。
私が一護の元を訪れるのは、これが初めてではなかった。
初めの頃は、“寒いから”だの“眠れないからなんとなく”だの、もっともらしい理由をつけて、此処に来ていた。
けれど、最近は――…、理由なんて、あってないようなもので。



「こっち来いよ」

琥珀色の瞳が、挑発的に誘う。

私は素直にそれに従う。

そう。
私は結局、彼に会いたいだけなのだ。

彼に、触れたいだけ。

彼に、触れて欲しいだけ。



こうして、私たちが密かに夜に逢瀬を重ねていることを知る者は、いない。

二人だけの、秘密。
その事実は、私を心底、興奮させた。



寝台に腰掛けると、後ろから一護が私を包み込む。

「ルキア」

耳元で、それも低い声で囁かれ、私は身体を震わせてしまう。

「手、冷たい」

「え?」

そうか?と首を傾げると、そうだよと即答された。

ちゅ、と指先に口付けられる。
一護の唇は、いつもより些か、熱を帯びていた。

「あっためてやるよ」

「手だけでは済まないのだろう?」

振り返りそう言ってやると、一護は少しだけ考え込む素振りを見せた。

「それは、オマエ次第」

「…ふ、狡い男だ」

小さく笑った私の声は、その狡い男の唇に呑み込まれた。

「一護…」

私は目を閉じて、彼の背中に腕を回す。

そして、全てを委ねた。







漆黒の闇夜に、同調するように、私たちは交わる。

静かに、けれど燃えるように激しく。

時に、むせ返るような甘い睦言に溺れながら――…。



end

 

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