小説部門

□雪の花
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はらはら はらはら


今年も、雪が降ってきました。






   〈雪の花〉



ハァーっと息を吐き出すと白くなる。
手袋にマフラー、厚手のコート。
更には空からの真っ白な贈り物。


「今年も、もう冬か…」

「早いもんだね。朽木さんが帰っちゃってから、もう大分経つんだ…」

「僕らも大人になるはずだね」

「ム…」



車の通らない道を、それぞれ大人になった男女4人が話しながら歩いている。


今年で25になる一護、織姫、石田、チャドの四人だった。
そこに、ルキアの姿はない。
破面との激闘の後、恋次らとともに尸魂界に帰ったのだ。
「きっとまた会おう」
笑顔でそう別れて。




「黒崎君って今何してるんだっけ?」

「俺か?今は実家引き継いでる」

「そっかぁー。病院だもんねー。石田君や茶渡君は?」


高校を卒業して以来、あまり会わなかったメンバーは
お互いが今どうしてるのか、よく知らなかった。そこで、織姫提案、企画で“現世組同窓会”が開かれたのだった。



「僕は町外れの小さな病院に勤めてるよ」

「俺は…引越し屋で働いている…。」


石田はやはり実家を引き継ぐ事なく、別の場所で働いてるようだ。
チャドは得意の怪力を利用して引越しの仕事をしている。


「井上は今何してんだ?」

「あたし?あたしは保育士になったんだ。もう毎日てんてこ舞い」


そう言って、笑った。
久々にみんなに会えたのが嬉しくて、この日が楽しみだった織姫。
…だけどやっぱり、一人欠けてるのが悲しくて。



「やっぱり…朽木さんも居れば良かったな」

つい、本音を漏らす。

「…そう、だね」

「ム…」



石田とチャドも頷いた。


一護は一人、悲しげに空を仰いでこう呟いた。



「俺、さ…雪見ると、どうしてもあいつの事思いだしちまうんだよな…毎年、毎年。」


否、本当は、いつも心の中に居て
忘れたことなんか無くて、
ずっと会いたいと思っていた。



「別れた時は…きっとまた会えるって、何の保証も無いのに思ってたけど……やっぱり、もう‥逢えないのかな‥?」


「そうだね‥そんな簡単に会えるもんじゃ無いかもね‥。」


「‥もうこの話はやめようぜ。折角久々に会ったんだからよ」



これ以上空気が重たくなるのを防ぐため、一護が止める。
織姫達も気持ちを汲み取り、話題を変える。




「そう言えばこの前、小島君達に会ったよ!」

「へぇー、元気だったか?最近会ってねえ…」

「うんっ!みんな相変わらず…」


ザアアア



織姫の言葉を遮り、突風が吹いた。



「うおっ」

「きゃっ」




思わず目を細め、ふと風が走り去った方を見ると、そこには見知った少女が小さく笑い 立っていた…。
そう、一番 会いたかった、大切な人。




「………ル‥キア?」


「嘘……」


「久しぶりだな、みんな」




10年ぶりの再会。
先程まで話していた少女が、そこには立っていた。
相変わらず小さくて、相変わらず細くて、……少し髪が伸びて大人っぽくなった少女。




「おま…どうして…」


「また暫くこの町の担当になったのだ。だから…みんなに会いに来た」



信じられないように見つめる4人に優しく微笑み、
「会いたかったぞ、みんな」
そう言って、笑った。



「……〜ったく、お前は本当にいつも突然だな!来るなら前もって言えっつーの!」

「なにっ!?仕方なかろう、この命令が出たのは昨日の事だったのだ!」

「だからっていきなり来んなよ!分かってたら‥」

「あ〜もう煩いっ。来てしまったものは仕方ないだろう!」



久しぶりに会ったと言うのにやっぱり口喧嘩。
でもなんだか懐かしくて、みんな笑っていた。



それから皆で喫茶店で懐かしい話、たわいもない話等をして、「またね」と言って別れた。
今度の「またね」は、“いつか”ではなく。
みんな、同じ場所に住んで居るのだから、いつでも会える、と信じていた。



帰り道。こうやって二人、肩を並べて歩くのも久しぶりだった。
本当に学生時代に戻ったようで、嬉しいような懐かしいような寂しいような、不思議な気持ち。



「…今日は済まなかったな。」
連絡もしないで、とルキアが言った。

「もういいよ、別に」

「みんな、相変わらずだったな。貴様も、何も変わって無くて安心した」

「なんだよそれ。当たり前だろ」



10年経っても、みんなが自分の事を覚えててくれた事が嬉しかった。
そして、何も変わらず自分を受け入れてくれた事が、とても嬉しかった。



「…ありがとう。一護」

「何が」


突然の感謝の言葉。少し驚き、ちょっとだけ恥ずかしかった。



「わたしのこと、忘れないで居てくれて…覚えていてくれて。」

「…ばーか。忘れるわけ、ねーだろ」




だって俺は、お前の事が好きだったんだから…。


……違う。
本当は今も好きで。


だけど、素直に言えなくて。だから…



「ルキア…ずっと、会いたかった」

「…ああ。わたしもだよ、一護」



その言葉が、仲間としてなのか
それとも、自分と同じ気持ちでいてくれてるのか解らなかった。
だけど、嬉しかった。


そして一護は、ルキアの手を優しく握った。


「!」

一瞬、びっくりしたルキアだったが
少し頬を染め、柔らかく笑い、手を握り返した。



「…またしばらく、世話になるぞ。一護」

「…おう。」



ちらほら降っていた雪が、本降りになってきて、
口から出るのは白い吐息だけど。
繋いだ掌は、とても暖かかった。



「‥雪、積もったら、雪だるまでも造るか」


昔みたいに。


「ああ。雪うさぎも忘れるなよ」


長かった、10年と言う月日。
少し、待ちくたびれたけど
今までの空白を埋めるように、これからの毎日、大切にしよう。



二人とも、心の中でそう誓った。





はらはら はらはら


今年も、雪が降ってきました。



でも今年の冬は、去年とはもう違います。


もう、冬が来て悲しくなったりはしません。


だってもう、君は隣に居るのだから。


 

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