小説部門
□いちごダイエット
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「……!」
(な、なぜだ、増えておるぞ!?)
風呂上がり―。
いつもはのったりせぬそれに、そっと身を乗せ、出された数字を見て驚愕。
こ、これはいかんっ…
そして、密かにダイエットを始めることを決意したのだった。
いちごダイエット
昨夜体重計の数字を見て驚いた私は、現世でどんなダイエットがあるのかを知るべく学校帰り本屋に向かう。
雑誌のコーナーには、『きちんと食べて楽しみながら出来るダイエット』『今話題のバナナダイエットの効果を大紹介』『あなたの食生活は?ダイエットの始めはまずここから!』と表紙に書かれているものがいくつかあった。
きっと、ダイエット関連の書籍を置いているコーナーに行けばもっとたくさんの情報が得られる筈。
でも、まずはこの辺りにあるものを少し読もうと、その内の1冊を手に取った。
『あなたの食生活は?ダイエットの始めはまずここから!』
(うーんと、なになに…“ダイエットをする前に今のあなたの食生活はどのようなものかをまず見直しましょう。一日に油の多い食物や甘いお菓子を食べ過ぎてはいませんか…?”)
まだ続く文章から一度目を離す。
そういえば、どうして体重が増えたのだ…?
それがわかれば、きっと今の体重を以前の体重に戻す策も見つかるだろう。
油物、をそんなに食べているわけではないし、むしろ遊子が色々考えて食事を作っているのだから、過剰摂取になるはずがない。
そこで、ハっと気付く。
そうだ、白玉やお菓子か!!
原因の目星がつき、それに思い至った私は、そのまま家へと走った。
◇◇◇◇◇
「おかえり。つか、どっか行ってきたのか?オマエ、帰りのHR終わってすぐ、もういなかったし」
一護はもう制服を脱いで、部屋着に着替えていた。
ベッドの上で窓際の壁を背もたれに座り、雑誌を読んでいる一護をちょっとだけ睨み付ける。
「原因は貴様にもあるのだぞ…!」
「は?」
「〜〜ッだから、貴様が私にお菓子を買うから食べてしまってだな、その結果ああなったのだから、私だけじゃなく一護にも責任があると言っておるのだっ!」
「ちょ、ちょい待て。話が見えねえんだけど、オマエなんの話してんだ?順を追って話さねえとわかんねえだろうが」
ふるふると手が震えている私を、一護がこっち来いというように手招きしたので近寄る。
「まずは、何があったかを話すコト」
一護のブラウンの瞳がじっと私を見るから、なんだか目をそらせなくなった。
「……た、」
「た?」
「体重がっ…ふ、増えたのだ…」
うぅっ、なんでこのようなことを面と向かって話さねばならぬのだっ。
とても恥ずかしく感じるのは、自分自身の身体のことを一護に知られるからなのだろう。
しかし、そんな私の気持ちに気付かない一護は、思いもよらない行動に出る。
「!?きゃあっちょ、何をするのだっ」
グイっと手を引っ張られ、私の身体は一護の腕の中。
「うーん…そんな変わってねえ気するけどな、抱きごこちとか。別に肉付きよくなったってわけでもねえし」
「〜〜〜ッ、抱きごこちは関係ないだろう!」
「関係あるだろ。んじゃ、別の方法」
そう言ったかと思えば、今度は一護が私を抱きかかえて立ち上がった。
「あー、やっぱあんま変わってねえと思うぜ?だってオマエ、普段と同じでめちゃくちゃ軽い。ほんと、綿みたいに軽いって言ってもいいぞ?」
「そ、そこまで軽くなどないわっ!!というか、本当に普段と変わらぬと感じるのか?」
「ああ、全然変わんねえ」
「で、でもっ、体重計では増えておったし、一護にはいつもお菓子を買ってもらっているだろう…?それを食べるから太ったのだと思って、だから‐」
「……?」
「……極力一護と離れて行動しようかと考えていた」
「はぁ!?つうか、俺がオマエにお菓子を買うのは、オマエが白玉食べたいだの、この菓子買えだの、俺にねだるからだろうが…!なんで俺がオマエとキョリ置かれなきゃなんねえんだよ!?」
「だって、一護がいなければ菓子を買ってもらえぬから、必然的に痩せるだろう?名付けて『いちごダイエット』だ」
「名付けんでいい!つうか、オマエはダイエットなんかしなくていいから…!もうちょっと太ってもいいくらいだ!それに、オマエと別行動とか離れるのは勘弁だしな」
そう言って、私を抱きかかえたまま、一護は私にキスをした。
そして、いつからいたのか部屋の入り口に立っている夏梨に気付く。
「……騒がしいから、何だと思って覗いてみれば、ほんとにもう、ベタベタにいちゃついてるというか、なんというか…。あ、そうそう、体重計は2日前に遊子が風呂掃除して扉を開けた時に水がかかって、それから調子悪いの。2〜3キロずれて、その分増えるみたいだから。じゃ、そういうことで」
夏梨が言い残した言葉を頭の中でもう一度繰り返す。
体重計の調子が悪かった?
では、私は太ったわけではなかったのか?
「ほれみろ。だから、普段と同じで変わんねえって言っただろうが。大体、オマエの体重増えたら、俺が一番に気付くだろ。いつもオマエを抱きしめたり、抱きかかえたり、おんぶしたりしてんだから」
「〜〜〜ッ、真顔で当たり前のように、そんなこと言うな…!」
どうやら私の心配は取り越し苦労だったらしい。
しかも、一護にこんなことを言われて頭には恥ずかしいの言葉しか出てこなかった。
でも、一護の言う通り、私の変化にいち早く気付くのは、周りでも、私でもなく、一護な気がする。
だって、私のことを誰より一番知っているのは、このオレンジ色の髪をした彼なのだから。
‐end‐