小説大会

□君の名を呼ぶ
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ー…君の名を呼ぶ。

天気がいいからと屋上で昼飯を食うなど珍しいことではない。
そしてそのまま昼休みをそこで過ごしあまつさえサボってしまうことも、まあ…珍しくない。
けどそれはみんなで飯食ったときとかで…

「…」

俺にどーしろっつんだ。
ムッスリと不機嫌を微塵も隠さずに空を仰ぐ。
腹立つくらい青い空。
こんなにいい天気ならそりゃ確かに眠くなる。
眠くなるが誰も寝ろとも寝ていいとも言ってない。

「バカ」

風にさらわれるくらい小さな声で呟いた。
本当なら教室でみんなと授業を受けている時間。
しかし今屋上には、ポカポカ陽気にあてられた自称死神様と俺だけ。
一緒に飯食ってた水色たちは

『僕ら授業あるからー』

と俺と寝こけたルキアを置いて早々に教室に戻ってしまった。
…だから俺にどーしろと。
ハア…頭痛え。
俺だって授業あるし何で戻んだよ。
去り際にニヤッとした水色の顔はこの際見なかったことにする。
俺は何も見ていない。
それに寝てる女一人置いて教室に戻るほど俺は冷たい奴じゃない。
起こしてしまえばいいのだろうが、何というか…よく寝てる。
本当、珍しい位。
だから起こせないでいた。
それだけ。
俺もいい加減甘い奴だ。
チラリと時計に目を落とすとまだまだ授業は始まったばかりでガックリ肩が落ちた。
彼女はというと相も変わらずコチラを向いて静かに寝息を立てている。
漆黒の綺麗な髪。
整った顔立ちだと思う。
今は凛とした濃紫の瞳も緩やかに閉じられた瞼で見えない。
睫長えなー。
黙ってりゃ、可愛いのに。
…黙ってりゃ、な。

「ん…」

寒いのか身を捩るルキアに仕方ないと上着をかけてやろうと近づく。
ただそれだけの目的だったのに。

コロン。

ルキアの動きに一護の動きが止まる。
脱ぎかけた上着を着直しルキアの顔をじい…と見つめる。
そうするうちにまた

コロン

とルキアがコチラを向く。
右に左にコロコロ転がるルキアが面白くって必要以上に近づいてしまう。
多分寒くて寝苦しいとかそんな理由だろうが面白い。
何か…猫、みてえ…。

「ルキア」

別に気づくとは思っていなかったがルキアの動きがピタリと止まる。
起きたかと思い顔を覗き込むもそんなことはなく。
それがまたおかしくってクックッと喉を鳴らした。
そんなことされたらもっと反応を見たくなる。

「ルーキア…」

耳元で囁く。
途端にふにゃ…と顔を破顔させ笑む。
酷く幸せな夢でも見ているように彼女は笑った。
ドキンと心臓が鳴って。
もっと。
もっと顔をよくみたくって。
止まらない。

「起きろよ」

止まらないんだ。
湧き上がる衝動が俺を本能のままに動かす。
お前をもっと近くに感じたくて。

「起きろって」

ほとんど覆い被さるような状態に近かったけどそれでも彼女は起きなかった。
まるで起きることを忘れたように眠りこける彼女が酷く遠い。

「なあ」

もっと。
もっと、近くがいい。

「ルキア」

じい…と目(といっても瞼だが)を見る。
穴が開くほどこれでもかってくらい。
至近距離なのに。
ルキアは起きない。
鼻息さえも吐息さえもお互いかかるほど顔を近づける。
起きろ。
起きて、俺を…。

「ねえ、起きて?」

起きてよ。ルキア。
俺を、見て。
早く。ねえ、ルキア。

ちゅ。

「は…?」

ヒュウッと風が吹いた。
妙に暖かく柔らかな感触に勢いよく体を起こし、思考をフル回転させる。
キス、した。
俺…今。

カアアアア。

意味もなくキョロキョロ。
今し方自分で自分たち以外とごねていたのにガタンと立ち上がり扉へと走る。
ダダッと全力疾走しバンと乱暴に扉を閉めた。
ルキアが起きたかもしれないとかそんなこと考える余裕さえなかった。
ただ頭が心臓が熱が鼓動が巡る血液が煩い。
そのままズルズルとその場に崩れ落ち一つ深呼吸する。
意識せずとも自然と唇に手がいった。
柔らかな感触が忘れられない。
自分とは全く違う。
女の子の唇。
カアアアア。

「あー…っ」

グシャリと髪をかいた。
何つうか。
半ば無意識。
自分の行動がまだ信じられなくて口元を覆った。
ちったあ後先考えろ自分。
彼女をそんな目で見たことはないしこれからもないと思ってたのに。
なのに…。
可愛いと思って。
笑うルキアが、愛おしくって触れたくって。
歯止めが利かないなんて。

「暑…い…」

とりあえず、ゴメン。
誰ともなく謝った。
自分の発する音以外は何の音も聞こえない。
ルキアはまだ起きていないようだ。
それに少し安心し、これは一生の秘密だと心に誓う。
…墓場まで持ってこう。
ふと上を仰ぐ。
よく晴れた冬の昼。
窓から見える空は青色。
腹立つくらい本当青い。

fin

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