小説部門

□瞳の奥
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唇が離れたから、瞳を開ける。

間近にある、蜂蜜色。

「ルキア、もっかいしよう」

そう言われて、慌てて瞳を閉じる。

閉じた瞬間、触れあった。









触れていた唇をゆっくりと離す。

もう幾度目かもわからないぐらいしているのに

いつもドキドキする。

ゆっくりと、ルキアの瞳が開いて藍の濃い青に見つめられる。

照れくさくなって、もう一度とねだった。













「一護は好きだな、くちづけ」

「ルキアは嫌い?」

わずかな間に幾度もついばまれた。

それが少し悔しくて。

「嫌い、ではない。だが…」

「だが、なに?」

「こんな人目のつきそうなところでするのは嫌だ」

「誰もいない公園だけど」

誰もいないからいいというわけではない。

誰にも見られたくないではないか。

「そういう問題ではない」

「俺にはルキアしか見えてないから、どこでだって同じ」

「たわけっ!」

「部屋だろーが、学校だろーが、ここだろーが同じ」

じっと見つめられる。

一護の瞳に映るのは自分。

本当は、嫌とは思っていない。

一護をもっと欲しいと思っている私。

いつもその瞳に見透かされてしまう。

望んでいることを。

「一護…」













その瞳に映っている自分の姿は、思っている以上にルキアを欲している。

大きな瞳に見つめられるのは少し恥ずかしくて、だからキスしてしまう。

「なあ、ルキア。またキスするの嫌?」

わずかに横に首が振られたから、そっと顔を近づける。

誰が来るかもわからない公園の片隅でルキアを抱きしめてキスをする。

「やわらかくて、甘い」

「いち、ご?」

感想を言ってみたら不思議そうに名を呼んでくる。

「ルキアはどう?」

「えっ、あっ…。気持ち、良いぞ」

腕の中で、もごもごと。

小さな声で告げられた。

まっかな顔をして。



また、キスしたくなってきた。

可愛くて、可愛くてしかたない。







瞳の奥にちろちろと。

それは、ルキアだけじゃなくて、俺の中にも。

はやくはやくと急くように、広がりはじめるから。

もっともっと奥深いところを求めたくなる。





だから……。







(終)

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