純情部屋(Short Story)

□ヒロさんの全てが惜しいんです
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なんだ……?
なんだか凄くフワフワした感じがする…。

唇に何かが……
野分の香りが………
「ん…………んっ?!」

何と言えばよいのか分からない感覚。無意識に幸せを感じていると自分がキスされている事に気付き目が覚めた。
「んっ………ぉ、おい!やめろ、朝っぱらから盛ってんじゃねぇよ!!」
「あ、ヒロさんおはようございます。」
怒鳴る俺とは対称的に野分は爽やかな笑顔で俺の頭を撫で上げる。
「おはようじゃねぇ!!人の寝込み襲ってんじゃねぇよッ!!」
「だってヒロさんの寝顔があまりにも可愛くて我慢でき…いたっちょっ……ヒロさん、痛いですっ」

俺は野分の恥ずかしい台詞を拳で制し叫んだ。
「馬鹿な事言ってんじゃねぇ!オラ、起きんぞ」
「………はい」
俺が乱暴にドアを開けて外にでると少ししょんぼりした野分の返事が聞こえる。

「ったく…次またやったりでもしたらただじゃ済まさねぇ」
水を飲みながらブツブツ独り言を言っていると遅れて野分がリビングに入って来た。

「……………何で嫌なんですか?」
「へ?………べ、別に……特に理由はねぇよ。と…とにかくもうすんな!」
そのショボンとした声に多少の戸惑いと理由を聞かれた事で焦りが生じ、上手く言葉が出なかった。

その一瞬の隙を見逃さなかった野分はすかさず弘樹に詰め寄る。
「何でですか?言ってくれないと俺、やめられません。」
「なっ…………?!」
そんな事を言いつつ、正直言ってもらってもやめられる自信はない…というよりやめるつもりはない。でももし本気で嫌がっていたら…俺を拒絶……してたら………。急に不安な気持ちでいっぱいになった。
「言って下さいヒロさん。もしかして………俺の事嫌いになったりとか………」
「ばっ馬鹿!勝手に話進めてんじゃねぇ!」
「じゃあ何でですか?」

実際には見えないが、今の野分には絶対垂れ下がった尻尾と耳が付いている。
そんな確信まで持てる程野分の声は哀愁漂い、黒くて凛々しい眉毛が下がっていた。




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