純情部屋(Short Story)
□花屋のあの人
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花屋でバイトをしている時、いつも夕方頃向かいのカフェの前から花屋を見てくる女性がいた。
その姿を見かける度、俺は花が好きなのかな?と思う。
前に一度探してる花が見付からないのかと思い声をかけた事があったのだ。
“こういうのって声かけづらいからなぁ…”
「いらっしゃいませ。何かお探しですか??」
しかしその女性は慌てた様子で
「あ…いえ、そういう訳じゃ……」と言葉を濁したきり黙ったままだった。
それでも帰る様子は無く、野分が日々
「今日はマーガレットが綺麗ですよ」とか
「紫陽花の花言葉知ってますか?」とか、色々声をかけたものの俯いて黙ったままなのだ。
けれど話はちゃんと聞いてくれているようで、帰る前に必ず野分が話に出した花をじっくり見ていくのだった。
その行動が何だか嬉しくて俺はいつも一言は声をかける。
あのカフェはよくヒロさんが俺を見ていてくれた場所…カフェを見る度口元に笑が浮かぶ。
そんな風に(日課にもなりつつある)カフェを眺めていたらある事に気付いた。
そういえば今日はあの人、来てないな……。
毎回欠かさず来ていた女性の姿が見えない。
「あの…」カフェの前をきょろきょろ見ていると声をかけられた。
「あ、はい。いらっしゃいませ」慌ててお客に向き直り、そのお客があの女性である事に気付いた。