拍手置き場
□第三回拍手小説
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「おい」
とある図書館の一角でリナはぶっきらぼうに声をかけられた。彼女が声の主を探すと、自分が使っている自習用の机上と彼女を訝しげに見比べる青年がいた。
「…えーと」
「この受験生だらけの部屋で机占領してんじゃねーよ」
「あ…!」
そう言われたリナは自分の机上の有様を見ると、慌てて物を片付けた。彼女の机の周りや机上には彼女の本やルーズリーフ、カラフルな蛍光ペンがところ構わず転がっていたからだ。
それらが片付くのを見計らって青年はリナの正面に座り、使い馴染まれている参考書と筆箱を鞄から引っ張りだした。
「あっ…あのすみません…」
「………別に」
青年は冷たくそう言い放つと、彼女に視線ひとつよこさず、黙々と自身の勉学に勤しんだ。
彼のノートに目を移すと、達筆な文字で「煉骨」と書かれている
その日から、リナの使っていた机に煉骨は毎日現れた。とくに込み合っていないときでも、彼は決まって彼女の正面席を陣取って、いつも難しげな参考書を広げる。
「(…すごい…参考書ぼろぼろ。きっと賢いんだろうなぁ…)」
リナはちらちらと彼の持ち物や彼自身に目線をやる。そしてごくまれに彼と視線がぶつかっては、慌てて目を伏せる。
「(何でだろ…変に目で追っちゃう…)」
そんな日々が過ぎるある日、リナはふと、日ごろの受験勉強がたたったのか、うとうとと机に伏して居眠りをした。
静か過ぎる図書館の一角、ほどよいヒーターの温度設定、なじんだ本たちの匂い。
彼女はついいつも以上にまどろんでしまう。