** BITTER SWEETS **
密集した文字の羅列に突如現れたカラフルな銀紙。
頭上から落とされたであろうそれは、本の上で軽く弾んで1つだけ膝にぽとりと落ちた。
私は振り返って、読書の邪魔をした犯人へと恨みがましい視線を向ける。
「…何するのよ、びっくりするじゃない」
「ルーピン先生からチョコレートを貰ったから、おすそわけ」
だったら普通に渡してくれば良いのに…
心の中で悪態をつきながら、甘い集団から弾かれた一粒の銀紙を剥がして口に放り込んだ。
香ばしいアーモンドと濃厚なチョコが口の中で絶妙な味わいを奏でだす。
流石はルーピン先生によって選り抜かれたチョコレート、そんじょそこらのお菓子とは訳が違う。
「ありがとう。とっても美味しいわ」
「どう致しまして」
そう言ってハリーは、私の座るソファーの背凭れに両腕を乗せて体を預けた。
私を見下ろす彼は、話題を振るでもなく立ち去る素振りも見せない。
私達は見詰め合ったまま、ただ流れていく沈黙の時間を共有していた。
不意に言いようのない居心地の悪さを感じ、慌てて手元の本に視線を戻す。
「何を読んでるの?」
「あ…えっと…冒険物の小説よ。シリウスが貸してくれたの」
興味無さ気に相槌を打つハリーの声がやけに近くで聞こえ、甘い香りが鼻を掠めた瞬間、私の肩に掛かる手の重み。
当に慣れた筈の恋人のスキンシップに、律儀に早鐘を打ってしまう心臓が恨めしい…