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□呆れるほどに愛してる
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「なあ、おまえの大好物は」
「おまえ」
俺の言葉に被せてとんでもないことを言ってのけるこいつは、俺の親友であり恋人の要(かなめ)という男。
初めて会った時から理解はしていた。こいつが俺様野郎で傲慢な奴だということは。
「違くてさ、俺は食べ物の話しを」
「おまえが大好物だ」
おかしいな、日本語なのに、通じない。今の気持ちを五七五でまとめてみました。
「俺は食べれません」
「食えんだろ。昨日、食った」
ニヤリと嫌な笑みを浮かべてクツクツと含んだ笑い声を立てる要と視線を交わすと、カッと顔が熱くなって思わずそっぽを向いた。こいつ、確実に俺の反応を見て楽しんでいやがる。
「言い方下品」
「うまかったぞ、おまえ」
俺の顎を掴んで無理やり正面を向かされると、未だ口元に弧を描く男の顔がすぐ目の前にあった。
驚いて後ろに下がろうとするも、後頭部は要が押さえているため逃れることはほぼ不可能。こんな時は、俺が折れるしか他ない。
「……近い、離せ」
「無理」
「即答かよ」
鼻が触れ合い、長い睫毛が瞬きに合わせて揺れ動くのをじっと見つめていると、ふっと要が笑った。
「なに」
「うまそうだなって」
「バカじゃねえの」
少し苛立った口調で言うと、彼は更に愉快そうに笑い、俺の耳に唇を寄せて囁いた。
「うまそう、食わせろよ」
とん、と肩を押されて、カーペットの上に寝転がる。横にはベッドがあるというのに。
「なあ、せめてベッドに」
「俺が今ここでおまえを食いたくなったんだ、文句あんのか」
「……ありません」
そこまではっきりきっぱり言われてしまうと、俺は要に勝る言葉がまったく出てこなくなる。
素直になった俺に満足したのか、ほくそ笑んで自分のシャツの前を開けた。
悔しいが、要のこういう仕種に俺は弱い。男っぽさを強く感じて、男である俺ですら魅入ってしまうのだ。
「おまえの好物はなんだよ」
突然な質問に一瞬ぽかんとしたが、すぐに我に返って改めて自分の好物が何かを考える。だが、急に言われると思いつかないものだ。
「え……なんだろ、寿司とか?」
悩みに悩んだ結果、一昨日食べた寿司を思い出した。
俺が素直に答えると、なぜか苦々しく顔を歪める要。
「空気読め、バカ」
「それおまえに言われたくない」
空気というか、人の気持ちを考えて行動しないおまえに一番言われたくない言葉だよ、それ。
「せっかく甘い雰囲気作ってやってたんだろうが。優しくしてやる気失せた」
ため息混じりに言って、乱暴に俺の服を脱がせにかかる。
「はあ!? ちょ、待てって、甘い雰囲気って」
「黙れ」
強い言葉に、俺はまた自分の言葉を飲み込んでしまう。
少しの抵抗も出来ぬまま、あっというまに俺は靴下だけのなんとも間抜けな恰好にさせられた。
「東(ひがし)の好物は、本当に寿司なのか?」
ずいっと顔を近付け、念を入れて俺の答えを問う。
「う、うん」
「本当に?」
「だから、本当……あ」
そうか、なるほど。要は俺に言ってほしいのか。かわいいところがあるんだな、とつい笑ってしまう。
「あー、他にもあった」
「なんだよ」
「俺の大好物は、要」
当たりだろうと胸を張って答えると、要はまた満足げに笑って、不意にキスを仕掛けてきた。
「ご褒美。うまいだろう?」
「……ああ、最高」
せっかく明日、要の好きなもん作ってやろうと思ったのに。
まあ、これでも充分に要が満足しているなら、それはそれでいいんだけれど。
「でも優しくしてやる気はねえからな。明日学校休め」
「はあぁ!?」
end