□ログ
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里中や天城なんかも、世間とは少しズレた女の子だと思う。
しかし今現在俺の目の前、眩しく白いセーラー服姿で何故か釣竿を水面に翳す女の子は群を抜いて世間様とズレていると思う。
「おじいさんに釣竿貰ったから」と言う理由で釣りを始めたらしいのだが、普通、花の女子高生が放課後に釣りなど、しない。
そして俺はと言うと、そんな彼女をただ横でぼけっと見遣る。
真剣な横顔がしかし大物を吊り上げて明るい笑顔になり、「釣れた!」とはしゃぐ姿がとてつも無く可愛く見える当たり−まあ惚れた贔屓目と言うか。
否、贔屓目なんかなくとも彼女は見目麗しく、優しく、誰からも好かれる人間であるのだが。

「よし、餌もラスイチだし、ヌシ様狙う」
「ヌシ様て…本当にいるのか?」
「いるよ。何度かやり合ってるもん」
「やり合…」
「でも中々釣れてくれないんだよね」

彼女−蒼がむうっと難しい顔をする。
その顔も可愛いなぁ、なんてぼんやり考えている間に、釣竿が振られた。
しばし沈黙が流れる。
仮にも恋人同士である筈なのだが、この集中している時に話し掛けると間違いなく殴られると学習した。
なので俺も黙っていると、蒼がぴくりと動く。

「来た…っ」
「うおっまじで!?」

まさか本当にヌシ様が。
流石にテンションが上がって俺も思わず立ち上がり水面を見遣る。
しかし分が悪いのか蒼は体を持って行かれそうになって、俺は慌ててその華奢な体を背後から抱き留めた。
しかし二人分の力で持ってしても、ヌシ様には−勝てなかった。

「のわ…っ!」
「きゃ…っ」

バシャンっと派手な水しぶきを上げて二人川に落ちてしまう。
ヌシ様の影が一瞬こちらを嘲笑う様にくねってスーっと消えて行った。

「と、大丈夫か?」
「…大丈夫じゃない」
「え、何処か怪我したか!?」
「…ヌシ様に逃げられた……」
「……はぁ…」

全然ぴんぴんしてる様だ。
俺は普段、蒼が刀をぶん回してシャドウを切り刻んでいるのを思い出してヌシ様との格闘ぐらいなんでも無いかと立ち上がる。
そして手を貸そうと蒼を見下ろすと、しかしその姿にどきりとした。
白いセーラー服が水に濡れて、下着が透けてしまって、いる。

「ちょ、蒼!透けてる…っ」
「ん…?あー…陽介のエッチー」
「いやいやいや、そこは悲しき男の性…じゃなくて!馬鹿!」

俺は蒼を岸に引っ張り上げると、鞄に入っていたジャージの上着を着せてやる。
ぶかぶか感のある姿がまた可愛くてムラムラするが、そこは何とか抑えた。

「陽介の匂いがする」
「持って帰って洗濯するとこだったんだよ…我慢しろよ」
「陽介の匂い好きだから別に問題無い」
「ちょ、おま…っ今あんま可愛い事言わない!」
「なんで?」
「う…察しなさいよそこは…」

白い輪郭に不思議な色の髪が濡れて幾筋かかり、その合間から綺麗な瞳が上目見てくる。
色っぽくて可愛い恋人はしかもたまに大胆で、道端だと言うのに急に唇を奪って来た。

「な…っ」
「ムラムラ?」
「…っ女の子がはしたない事言わないの…!」
「へへー陽介カワイー」
「あーもう!」

へらりと笑う顔が可愛いから、俺はその手を掴み早足で自宅に連れていく。
意識的なんだか無意識なんだか、どちらでも、とにかく。

「堪らないんだよ!」
「うんー」
「嫌なら、振りほどけ!」
「嫌じゃないよ」
「………っ」

嗚呼、やっぱりこれは意識的だ。
だって振り返った瞳が優しく笑ってる。

濡れたまま手を繋いで走る様な速さで歩く俺達に周りは怪訝な顔をしてたけれど、気にならない。
早く触れたい。
そんな思いだけが思考をいっぱいにして、掴んだ手をきつく握った。


――…


フリリク、Eccentric Girlの没ネタ。
本編はフリリク二段に収納。


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