□一万打記念
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はぁ、と吐き出す息は一瞬空中に白く舞い直ぐに消えた。
二人並んで歩きながら、まるで何かの呪文の様に寒い寒いと呟く。

「鼻とか出放題だぜほんと」
「陽介汚い」
「うっせ」

ズッと赤い鼻を啜って陽介は両手に息を吹き掛ける。
慰め程度にしかならない温かさにそれでも何度も繰り返し暖をとっていると、ふと蒼夜が手を差し出して来た。
一瞬何を要求されたのか解らずにきょとんとした陽介に、蒼夜は再び促す様に手を差し出してくる。

「手、冷たいんだろ?」
「…え、あ、もしかして手繋ぐって事…?」
「…嫌なら別に良い」
「ば…っ嫌な訳ねっつの!」

陽介は引っ込め様とした蒼夜の手を慌ててぎゅっと掴む。
その手もやっぱり冷たかったから、陽介は上着のポケットに繋いだままの手をいれた。

「…歩き難い」
「暖かいだろ?」
「……まあ」

それきり蒼夜は何も言わず、手を解こうとするそぶりも無い。
陽介は、蒼夜が取り敢えず否定から入るのは照れ隠しなのだともう知っているから、同じ様に黙してただ歩き続けた。
先程までかじかんでろくに動かせなかった指先が、徐々にじんわりと温かくなっていく。
溶け合い同じになる体温が酷く愛しく思えるのは、寒いせいばかりでは無い。

「へへ、端から見たら寒いな俺ら」
「…かなりな」

高校生男子が手を繋いで歩くなど周りから見れば奇異にしか映らないだろう。
それでもどちらも離そうとしないのは、やはり。
無言で陽介が握る手に力を込めると、当然の様に握り返される。
かじかんだ指先はもうそこには無く、ただお互いの気持ちを分け合う様な温もりが灯っていた。



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