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「俺転校ばっかでさ。もう慣れたけど初めての時はいきなり知らない環境になるからどうしたら良いか解らなくて。だから友達も出来なくてさ。…でもある日一度だけかくれんぼに混ぜて貰ったんだ。鬼になって暗くなってもずっと捜して。後から知ったんだけど、初めから直ぐに別の場所に行ってたんだ、皆。そんな事も知らないでずっとわくわくしながら捜してたんだ。…はは、馬鹿みたいな話しだろ?」

そんな話しを陽介が聞いたのはつい昨日の事だ。
校内や町の様々な人と触れ合う蒼夜は本当に顔が広いと言うか人付合いが上手いなと思って素直にそう告げたのだが、少年から返って来たのは苦笑混じりのそんな言葉だった。
つまり蒼夜の人付合いの上手さはそんな苦い経験があっての、処世術なのだろう。
少年が他人にとことん優しく出来るのは、一人が恐いから、嫌われるのが恐いからなのかも知れない。

「おーす、花村。リーダーに内緒でジュネス集合って何よ」
「月宮くん部活だから良かったけど」

そう言って現れたのはお馴染みの千枝と雪子である。
陽介はいつもの特捜隊の本拠地で定位置の席に座りながら、実は今日、特捜隊のメンバーをひそかに召集していた。
蒼夜には内緒で、である。

「ちわっす。改まって話しってなんスか」
「本当に先輩呼ばなくて良いんですかー?」
「彼には聞かれたくない話しなんですね」

千枝と雪子が着席したタイミングで一年生トリオもやって来た。
特捜隊のメンバーが集合しているのにリーダーが不在なのは初めてで何だか違和感があるが、直斗の言う通り、蒼夜には秘密にしたい事があるからである。
陽介は皆が座ったのを確認してから、口を開いた。
そして陽介は何度か言って良いものか悩んだが、昨日蒼夜から聞いた話しを皆に伝える。

「リーダー、そんな過去があったんだ…」
「月宮くん、大変だったんだね」
「俺ならそんな奴ら片っ端から殴るっすけどね」
「馬鹿完二!先輩は優しい人なんだからそんな事しないわよ」
「月宮さんは凄いな…逆境を乗り越えて…僕なんかとは大違いだ」
「…んでさ、此処からが本題なんだけど」

陽介はしんみりする空気を払う様に明るい声を上げて皆を見回す。

「あいつの誕生日、もうすぐだろ?日頃の感謝もこめて皆で祝ってやりたいなと思って」
「お、花村にしては良いアイディアじゃん!やろやろ!」
「私も賛成。彼にはお世話になってるもの」
「っしゃあ、先輩の為なら何でもするっスよ!」
「私も私もー!」
「名案ですね。ならば早速計画をたてないと」
「へへ、実は皆ならそう言うと思って、堂島さんに連絡してさ、家借りる許可貰ったんだ。あいつ堂島さんも菜々子ちゃんも本当の家族みたいに大事にしてるし、祝ってもらったら嬉しいだろうと思って」

陽介は少し得意げに笑い、皆を見回した。
そして片手を前に差し出す。

「特別捜査隊は本日から一週間後の月宮の誕生日まで、月宮を祝い隊で宜しく!」
「ネーミングセンスださっ。…まあいっか、やるからには全力出しちゃうからね!」
「うん。少しでも喜んで貰えるよう、頑張ろう」
「うっす」
「はーい!」
「はい」

陽介の手に皆が手を乗せ、おーっと気合いを入れた。

「あれ、なんか盛り上がってるねぇ」

わいわいと計画を立て始めたメンバーに、不意に声がかかる。
皆が視線を上げると相変わらずのゆるい顔をした足立が立っていた。

「足立さん。こんちわっす」
「はいこんにちわ。んで、何してんの?」
「月宮くんの誕生日会しようと思って」
「誕生日会!わは、懐かしいなその響き」
「来週なんですけど足立さんも来ませんか?」
「雪子、チョイス微妙じゃない?」
「良いじゃない。人数多い方が賑やかでしょ?」
「うーんまあね」
「なんか酷い言われようだけど…お邪魔して良いなら行こうかなー」
「…サツ居たら酒とかのめねぇーな」
「巽くん、僕ら未成年…と言うかそもそも堂島さんが警察だから」
「あ、そっか…」

完二と直斗の漫才の様なやりとりに皆が笑った後、相変わらずのサボりなのか足立を加えて皆がサプライズパーティーの計画を練つた。
それから一週間。
プレゼントを選んだり、ケーキ作りの練習をしたり装飾物を買ったりと皆が忙しく準備に奔走した。
そして、当日。
休日だった為、皆が準備をする間、陽介が蒼夜を連れ出して外で時間を潰した。
勿論気付かれない様にいつも通り接していたのだが、しかし蒼夜は何処か微妙な表情を浮かべている。

「どした?元気無いんじゃね?」
「うん…最近さ、皆に避けられてる気がして。誘っても断られるし…なんかしたかなぁ俺…」
「ば…っんな訳ねぇよ…っ」
「そう…?」

しょげる蒼夜の手をぎゅっと握って、陽介は携帯の反応をまだかまだかともどかしく待つ。
準備が出来たらメールが来る事になっているのだ。

「陽介、手、恥ずかしい…」
「良いだろ、たまには。嫌か?」
「…嫌じゃない」

蒼夜はそう言って困った様に眉尻を下げてはにかみながら笑う。
そんな姿が可愛くて堪らず、陽介は人目も忘れて蒼夜を抱きしめそうになった。
しかし腕を上げかけた瞬間にポケットの携帯が振動する。
確認すると千枝からで、準備OKと書かれていた。
陽介はやっとかと思いながら蒼夜の手を引き歩き出す。

「陽介、何処行くんだ?」
「お前んち」
「うん?」
「良いから、ほら、早く!」
「わ…っ陽介、転ぶ転ぶ!」

手を繋いだまま陽介が走りだしたから、蒼夜は半ば引きずられる様な形になって走った。
すると程なくして堂島家に辿り着き、陽介は蒼夜に入る様促す。
訳も解らないまま入って居間に行くと、瞬間軽い破裂音が幾つも鳴り響いた。

「誕生日、おめでとーう!!」

一斉に響いた声。
きょとんして蒼夜が辺りを見回すと、音の元凶であるクラッカーを持った見慣れた顔が皆笑顔でそこにいる。
まだ驚いたままでいる蒼夜に菜々子が近付いて手をとり、ずらりと料理が並ぶテーブルの前に導かれた。

「お兄ちゃん、誕生日おめでとう!みんなで準備したんだよー」
「そうそう、リーダーにはいつもお世話になってるからね」
「月宮くんにばれない様に準備するの大変だったよ」
「クマも手伝いましたー!てかクマも今朝聞いたんよ」
「お前に言うと直ぐばらしそうだからな」
「失礼な!クマはやれば出来る子よ!」
「先輩、プレゼントもあるっスよ!イザナギ人形作ってみたっス」
「私もー!りせちー特製セルフ写真集だよー」
「僕も…月宮さん忙しそうだから手帳を」
「あ、こら、プレゼント渡すのはもっと後…ええい、まあ良いか。俺からは俺セレクションのMDセットだ」
「私のはオススメ名作DVDだぞよ」
「私はマフラーと手袋。そろそろ寒くなるし」
「クマはオシャレ眼鏡ね!」
「菜々子はミサンガ作ったよ」
「俺からはお守りだ」
「僕は簡単手品セット〜」

口々に言いながら蒼夜の手元にプレゼントが渡されて、あっという間に埋もれていく。
その重さが、皆の気持ちが嬉しくて、蒼夜は不意に涙を零した。

「月宮!?」
「リーダー、ど、どうしたの?」
「やーん先輩泣かないでーっ」
「あ、違…」

皆に心配げに見られて蒼夜は涙を拭い、笑顔を浮かべる。

「俺、嬉しくて。…皆と出会えて良かった。有難う」

蒼夜の真っすぐな言葉に皆は顔を見合わせて一斉に破顔した。

かくして月宮を祝い隊の作戦は大成功を収めた。
今日ぐらいはと遅くまで皆で盛り上がり、蒼夜にとって生涯忘れられない最高の誕生日になったのである。


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律さまへ。
オールキャラ愛され主。

中々オールキャラとなると誰が喋ってるか解りにくいですねf^_^;
でも余り書かない形態なのでスキルアップした気がします!(気だけ)

ご期待に添えてるか解りませんが、どうぞ貰ってやって頂けると有り難いです☆

この度はリク有難うございました−!



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