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クリスマス、当日。
死に物狂いで仕事を終わらせた足立は駆け足の速さで帰宅する。
するといつもの様に蒼夜が笑顔で迎えてくれて、テーブルの上にはクリスマスらしい料理がずらりと並んでいた。

「ただいまー!すっごい料理だね」
「へへ…調子に乗って作り過ぎちゃいました」
「うまそうー」
「さ、食べましょう?」
「うん」

足立がスーツを脱いで部屋着に着替えてくると、蒼夜はグラスにワインを注いでいた。
自分の分はジュースな所が律義な少年らしくて足立は少し笑ってしまう。

「今日ぐらいワインでも良いのに」
「警察の台詞じゃないですよー」
「はは、真面目だなぁ」

テーブルの前に腰を下ろした足立に蒼夜はグラスを掲げ笑みを浮かべる。
足立もそれに習う様にグラスを持ち、傾けて笑んだ。

「カンパーイ」
「乾杯」

喉を潤し、二人料理を口にしながら談笑する。
下らない事で笑い合う空気は少年が来てから当たり前になったもので、この光景も馴染んでしまった。

「蒼夜くん」
「はい?あ、おかわりですか?」
「ううん。あのね、これ」

足立は見つからない様に隠していたプレゼントを取り出し、蒼夜に差し出した。

「クリスマスプレゼント。何が良いか悩んだんだけど…似合うと思って」
「−有難うございます」

蒼夜は酷く嬉しそうに、幸福そうに微笑んだ。
この顔だ。
この顔が見たかったのだ。
足立もまたつられた様に笑みを浮かべ、開けてみてと蒼夜を促す。
言われた通り開けた蒼夜は、現れた青い石をじっと見遣った。
その目に青が映り、瞳まで青く見え、酷く綺麗だ。

「綺麗…俺、こんな高そうなもの…」
「俺が勝手に似合いそうだと思っただけだし…その…僕が贈ったものを君が身につけてくれるの嬉しいって言うか……あー」

これ、変態っぽいねと頭を掻いて苦笑する足立に、蒼夜は首を横に振って嬉しいと微笑む。

「あの…俺もその…プレゼント…」
「え、何かくれるの?」
「はい…あの…喜んで貰えるか解らないんですが…」

蒼夜はそう言うと何かを持って来て、足立の首にかけた。
ふわりと首元が温かくなり、視界に暖色が映る。

「マフラー…?」
「はい…その、そういうの得意な知り合いがいて…結構上手く出来たと思うんですけど…」
「まさか蒼夜くんの手作り?」
「はい」

照れ臭そうに頷いた蒼夜を、足立は堪らずぎゅっと抱きしめた。
マフラーも少年も温かく、足立は何だか泣きそうになる。

「有難う、蒼夜くん。嬉しいよ…本当に、嬉しい」
「俺も…嬉しいです」

抱きしめて、蒼夜の耳元をふと見た足立は、ある事に気付いてぴたりと動きを止める。
そして蒼夜の耳を触った。

「ん…足立さん?」
「あれ…もしかして蒼夜くんてピアス穴開けて無い?」
「え、あ、はい」
「………」

真面目な蒼夜の事だ。
親から貰った体に自ら傷を付ける様な事はしないと、考えれば解った筈なのに、すっかり失念していた。
うっかり癖はいつもの事だが、足立は自分の考えの無さにいい加減呆れてしまう。

「あああ…ごめん…」
「いえ…あの…」

今度、開けるの手伝って下さいね。
はにかむ蒼夜は可愛くて、足立は喜んで、と笑い返してやる。
へへっと笑う蒼夜はぎゅっと足立に抱き着き、悪戯っぽい瞳で見上げて来た。

「ワインも、飲んでみようかな」
「え?どうしたの急に」
「俺、良い子だって言われるけど…その、誰かに反発してまで何かをする程興味が無かっただけで…その…」

要は面倒なだけなんですと蒼夜は舌を出す。

「だけど、足立さんとなら、何でもしてみたい…初めての事、沢山貴方として行きたいんです」
「蒼夜くん…もー可愛い過ぎ!よし、もっかい乾杯だ!」

足立は蒼夜の空のグラスにワインを注ぎ、それを手渡した。
少年は心持ち緊張した顔でそれを受け取り、二人はもう一度乾杯をする。
そしてグラスに口をつけた蒼夜は、勢いよく中身を飲み干してしまった。

「そ、蒼夜くん?!そんな一気に…」
「はれ…目が、回る…」
「わ…っ」

ふらーっと倒れ込む蒼夜を足立は慌てて受け止める。
真っ赤な顔をした蒼夜は腕の中でもう寝息をたてていて、足立は苦笑した。

「そういえば堂島さんもあんまり強く無いもんな。血筋なのかなぁ」
「んー…透さん…」
「はは、夢でも一緒にいてくれてるの?」

むにゃむにゃと呟く少年の頭を撫でる。
何でもそつ無くこなす蒼夜がこんなに無防備な姿を晒すのは、信頼してくれているからだろうか。
足立は胸が満たされるのを感じながら、そっと眠る少年に呟いた。

「MerryXmas、蒼夜くん」

穏やかで優しい空気の夜は、しんしんとふけていく。



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