□キリリク
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「今年も雪、降りそうも無いですね」

蒼夜がこの八十稲羽に来てから幾年が過ぎたが、しかし雪が降るのを見たのは初めてこの地に来た年だけだ。
都心に住んでいた蒼夜にして見れば雪が降るのは楽しみであるのだが、しかし足立はそうでも無いらしい。
ごろりと床に寝転がる足立は読んでいた雑誌から顔を上げて蒼夜に半眼を向けた。

「寒いの嫌いだし」
「でも、クリスマスに雪なんて、ロマンチックじゃないですか?」
「……ああ」

そういえば今日はクリスマスか、と言って足立は起き上がり、蒼夜を近くに呼ぶ。
素直に寄って来た蒼夜の眼前足立は片手を突き出した。
握られた拳にきょとんとした蒼夜の視界に、しかし突然白いものが映る。
ひらひらと短いながら宙を舞った白は、綺麗で瞬間雪の様に見えた。

「…本物は無理だけどね」

そう言って足立が再び差し出した手には、白が基調の小さな花束が握られている。
そこで蒼夜は漸く舞った白が、その花びらなのだと気付いた。

「これは…?」
「…MerryXmas」
「……!」

驚いて目を見開く蒼夜に、足立は苦い顔をしながら花束を押し付けるとまた寝転がってしまう。
そして顔を隠す様に雑誌を被った。

「…たまたま、目についたから買っただけだからね…クリスマスなんて忘れてたし…」
「……へへ、嬉しいです」

蒼夜は花束を早速花瓶に挿し、それを眺めて笑顔を浮かべる。
足立はそんな様子を横目に見て、転がりながら蒼夜に近づくと、細い腰に抱き着いた。

「で、蒼夜くんはプレゼント無いのー?」
「え、あ…その、何が欲しいのか解らなくて…」
「…僕が欲しいものなんてもう、一つしか無いけどね」
「何ですか?」
「…解るでしょ?」

そう言った足立の手が蒼夜の服をめくって背中を撫でる。
びくっとした蒼夜は赤くなって俯いた。

「…貰っても良い?」
「……」

蒼夜はこくりと頷いて、真っ赤な顔で足立の髪に触れる。

「でも、それで良いんですか…?俺は…あの年からもうずっと…貴方のものなのに…」
「……はは、本当君ってさ」

可愛いよね。
笑った足立はぎゅっと蒼夜に抱き着き、頭を撫でる手に目を閉じる。

「…今日はこれで良いよ。…君が傍にいてくれるだけで、もう何もいらないのは、本当」

心地良さに眠気が挿したのか、足立は眠そうにぽつりぽつり呟く。
蒼夜は幸せな暖かさに笑みを零しながら、何度も優しく愛しい人の頭を撫で続けた。
酷く穏やかなクリスマス。
ふと蒼夜の視線が少し開いてしまっているカーテンに止まり、隙間から窓の外が見える。
するとそこにはちらちらと降る白い結晶。
しかし蒼夜は望んでいた雪を前にしても、動かない。
傍らにある温もりが、静かに寝息をたて始めたからだ。

「…俺だって、貴方がいれば他に、何も要らないんですよ」

呟きは静かに空気に溶ける。
それに応えるかの様に、少しだけ足立が笑った様な気がした。



−−−−


11111キリリク
依鈴さんへ。

今回はセンスレスの流れの二人で書かせて頂きました!
なので何年後かで同棲してる設定です(^^)

ご期待に添えてるか解りませんが、貰ってやって頂けると幸いです!

この度はリク有難うございましたー☆



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