□キリリク
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「月宮さん、あの…今日の放課後、少し付き合ってくれませんか?」

二年の教室に躊躇いもせず入って来たのは特捜隊のメンバーであり、一年生の白鐘直斗である。
直斗は自席に座る蒼夜の側に来て、そう控え目に尋ねて来た。
今日は夜からバイトである以外に特に急ぎの用も無かったので、蒼夜は良いよと笑顔で頷く。
すると直斗は一瞬ぱっと明るい顔をしたが、それが恥ずかしかったのか赤くなりながら咳ばらいをして、じゃあ放課後、と教室を出て行った。
陽介は一部始終を後ろの席で見ていて、おいおい、と蒼夜に声をかけてくる。

「ちょ、呼び出しかよ。…まさか告白とか…」
「はは、まさか。またなんか暗号解読とかかもなぁ」
「…ほんとかよ。あいつお前といるとすげぇ女の子な顔してんじゃんよ」
「直斗は元々女の子だろ?」
「…………」

陽介は鈍い蒼夜に溜息を吐いてそれ以上言い募るのを諦める。
しかし気が気では無い。
陽介は蒼夜の事がひそかに好きで、それは親友としての好きを越えてしまっている。
しかし直斗が−女の子がライバルだったら、男の自分など、勝ち目が無い。
否、最初から可能性など無いのだが、それでもいざ蒼夜が誰かと付き合う事になったら、素直に喜べ無いだろう。
しかし陽介のそんな思い等お構い無しに放課後は訪れ、並んで下校していく二人の背中をただ、見送る事しか出来なかった。


−−…


「急に誘ってすいません」
「いや、大丈夫だよ。何かあった?また暗号文とか?」
「あ、いえ…」

土手にある屋根とテーブル付きの簡易ベンチに座り、たわいない話しをする。
しかし直斗が何かを言いたそうにしているから、蒼夜は優しく問いかけてみた。
すると瞬時口をつぐんだ直斗が、やがて意を決した様に、真っ直ぐ蒼夜を見る。

「月宮さんは…その、す、好きな人って、いるんですか?」
「え?あ、と…あー…」

真剣な瞳で見てくる直斗に、蒼夜は困りながら間延びしたなんとも言えない声を出す。
そして頭を掻いて赤くなりながら、うん、と短く頷いた。
直斗は僅かな可能性に賭けて、煩く鳴る心臓を抑えながら、そっと問う。

「それは…僕、では無いですよね」
「えっと…うん」
「はぁー…」

大袈裟な溜息を吐いた直斗は、しかし可能性が無い事を知って逆に落ち着いたのか、すっきりした顔で蒼夜に告げる。

「僕、月宮さんが好きです。貴方みたいに何でも出来て、でも優しい男の人、憧れます。…多分、僕にとって理想の人なんだ」
「直斗…」
「…はは、多分フラれるとは思ってたんですけでど。でも、ちょっと悔しいな」

いつも穏やかな笑顔で流暢に話す蒼夜が、口ごもりながらはにかんで、でもその相手を思い描いたのか一瞬酷く熱を持った目をしたから。
そんな顔をさせる相手に、嫉妬してしまう。

「えっと…ごめんな、直斗」
「いいえ。フラれても良かったんです。正直その…付き合うとか、よく解りませんし…。僕は初めて…男の人を好きになれて、恋する気持ちを知ったから。だから、きっとこれからは自分のジェンダーに素直になれると思うんです」

告白してみて良かった。
直斗ははにかみながら、何処かすっきりした顔で笑う。

「有難うございました。思いを伝える事で見える事もあるって、学べましたよ。僕………私は、もっと、女の子として、自分を磨こうと思います」

だから月宮さんもその恋、頑張って下さいね。
直斗はそう言い、今日は有難うございましたと一礼して去って行った。
残された蒼夜は頭を掻いて、ぽつりと一人呟く。

「頑張れ、か…うん…そうだな」

直斗に後押しされた蒼夜は、ひそかに決意する。
多分、敵う事の無い思いだけれど。


−−…


「昨日、どうだったんだよ」

翌日の放課後、ジュネスのフードコートに蒼夜は陽介と寄り道をしていた。
飲み物を買って席につくなり陽介が尋ねたのは、昨日の事である。

「直斗に背中押されたよ」
「は?」
「好きな奴がいるって言ったら、頑張れって」
「……月宮、好きな奴いんの?」
「うん」

頷いた蒼夜に陽介は瞬時聞きたくないと思ったが、しかし何とか笑みを浮かべる。

「まっさか里中とか天城とか?あ、りせちーとか!」
「………花村」
「ん?」
「だから、花村」
「は?」

蒼夜は伝わらなさに眉根を寄せながら、真っ赤な顔で陽介を見遣り、半ば叫ぶ様に告げた。

「だから、俺は、花村が好きなんだよ…っ」
「お、俺…?」
「…………気持ち悪い、よな」

ごめん、とうなだれる蒼夜に陽介はぽかんとしてから、漸く言葉の意味が理解出来てがたりと席を立った。
嫌われたかなとぎゅっと目を閉じた蒼夜に、しかし去ってしまうのかと思った陽介が近づく。
そして突然がばっと抱きしめられた。

「わっ、は、花村…?」
「ははっすげぇー…何だよ今日、すっげぇラッキデーじゃん…」
「何…?」
「…叶う筈無いって思ってた。男だし、お前の事好きな奴、いっぱいいるし」
「………花村」

陽介は抱きしめた腕を離し、顔を見合わせて最大級の笑顔を浮かべた。
そして俺も、と囁く。

「月宮が、好きだ」
「………嘘…」
「嘘じゃねぇよ」
「…だ、だって都合よすぎ…」
「俺だってちょっと夢じゃねぇかって思うけど……」
「…本当に、俺で、良いのか?」
「月宮が、良い」

照れながらも真っ直ぐな瞳を向ける陽介に、蒼夜もまた嬉しそうに笑んだ。
そしてそんな二人の姿を、実は影から見ている人影が一つ。
他でも無い、直斗である。
直斗は幸せそうな蒼夜の顔を見て、上手くいったのだと核心すると、自然浮かんだ微笑みを隠す様に帽子を深く被った。
好きな人が幸せであると、どうやら胸が温かくなるらしい。

「−お幸せに」

直斗はそう呟くと、踵を返し、二人に背を向け歩き出したのだった。


−−−−−


青山さまへ。
花主←直。

自分が書くと何でも甘酸っぱい青春グラフィティになりますf^_^;
ノマも好きなんですが自分が書くとなると難しい…!
ご期待に添えてるか解りませんが、どうぞ貰ってやって下さると幸いです☆

この度はリク有難うございました!



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