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「なーんか本当に刑事になったんだねぇ」

足立は蒼夜に支給されている警察手帳を見ながら何とは無しにそう呟いた。
蒼夜はスーツを脱ぎながら床に転がっている足立に視線を向け、笑みを浮かべる。

「張り込みとか、楽しいですよ」
「そう?僕は面倒だったけどなぁ。…てか何この写真、すっごい澄まし顔」
「警察手帳の写真を不真面目な顔で撮る人いるんですか?」
「そうだけどさー。なんかムカつくわー」
「はは。足立さんのネームプレートの写真もかっこいいじゃないですか」
「うっわ、それ嫌み?」

蒼夜は洗濯の為にエプロンから外されたネームプレートの写真を見て笑う。
足立は刑務所から出て、今はジュネスで働いていた。
蒼夜が店を継いだ陽介に頼み込み、雇って貰ったのである。
この町で暮らす事を言い出したのは実は蒼夜では無く足立の方で、その心中は解り難かったが、何と無く理由は察した。
足立は多分、もう逃げたく無いのだ。
この町にいる事で、荒んだ日常が戻って来たとしても、忘れないでいられるから。
あの年、人を危めた事を。
もう二度と、歪まない為に。

「さって、ご飯作りますから、テーブル片付けて下さいね」
「はいはい」

軽く頷いたものの動く気配の無い足立に蒼夜は苦笑した。
一緒に暮らす様になって知った事が幾つもある。
その一つが、面倒くさがりな事だ。
放って置くと、脱いだ服はその辺にあるわ暇潰しにやっているプラモの部品わ転がっているわ、とかく散らかし放題なのである。
まるで大きな子供だ。
蒼夜は足立の傍にくると、手をとって寝転がる足立を引っ張り起こす。

「ほら、ちゃんと片付け無いと晩御飯抜きにしますよ?」
「うー…」
「だらけないの。………今日休みだったけど、もしかして一日中だらけてたんですか?」
「あー」
「…全く、しょうがない人だなぁ。良いですか?あんまりだらけた生活してると…わ…っ!」

足立が不意に蒼夜を引っ張り、どさりと自分の下に組み敷く。
そして不敵に笑いながら、蒼夜のネクタイをしゅるりと解いた。

「あ、足立さん…っ」
「しよっか」
「ちょ、何盛ってんですか…っ」
「なんかムラっとした」
「なに、それ……ふ…」

ワイシャツの上から足立の指が胸の突起を擦り潰し、もう片方には舌が這う。
びくっとした蒼夜は赤くなりながら、しかし抵抗しない。
いつだってそうだ。
蒼夜は足立がこうして突然行為に及んでも、決して抵抗しない。

「蒼夜くんって、結構マゾ?」
「な…っなんですかそれ…」
「だって、いつ押し倒しても、抵抗した事無いじゃない」
「ああ…それは…」

蒼夜は赤い顔を足立に向け、恥ずかそうに呟く。

「だって…足立さんが好きだから…」
「………」
「それに俺は…貴方を拒否する様な事は絶対しないって決めてるんです。誰が貴方を拒んでも、俺だけはいつでも…受け入れようって」

恥ずかしそうに目を細めて、しかし蒼夜は酷く優しく微笑む。
昔はこの、全て解った上での包容力みたいなものが、欝陶しかった。
憐れまれている様で、上から見られてる様で、酷く腹立たしかったのだ。
だけど、今は違う。
この笑みを見ると、許されている気がするのだ。
自分の存在を、自分が此処にいる事を。
足立は蒼夜のシャツに手をかけながら、ゆっくり咽や鎖骨、耳を舐める。
開けさせた胸にも舌を這わせ、何度も何度も丁寧に肌を舐めた。
蒼夜はやんわりした刺激を与えられてぞくぞくと甘い寒気に苛まれる。

「ん……ふ……あ…足立さん…なんか…ふ…今日やさし…」
「乱暴な方が好き?」
「…だって…あ…いつも…」
「…二回目に抱いた時、震えてたよね」

初めて蒼夜の体を蹂躙したのは、彼がまだ高校生だった時。
ずかずかと人の領域に踏み込もうとするから、手酷く拒絶した時だ。
快楽も与えず、ただただ無理矢理体を繋げて。
その記憶があったのか、一緒に住む様になって初めて組み敷いた時、蒼夜は真っ青な顔色で震えていたのだ。
それでも蒼夜は、拒まなかったのだけれど。

「…痛いのに慣れちゃった?」
「解んない…」
「でもだーめ。今日はものすごーく可愛がりたい気分だから」
「う…」
「待ち切れないなら、自分でしてても良いよ?」

くすりと笑いながら足立は蒼夜のスラックスを下着ごと剥ぎ取り、あらわになった下肢に青年の手を添えさせる。
赤くなりながら蒼夜は、素直に自身を擦り始めた。

「う、あ、あ…ふ…」
「やーらしい」
「あ、足立さんが…ふ…やれって……」
「僕はしてても良いよ?って言っただけだよ」
「うあ…はぁ…ん…ん…」

足立は蒼夜の足を掴んで、指の間や足首を丹念に舐める。
擽ったいのか気持ち良いのか、蒼夜はびくびくと震えて身をよじった。

「や…足立さ…」
「豆出来てる。刑事は足腰基本だから、大変だよねぇ」
「あ…あ…ひう…っ」

ふくらはぎを伝ってきた唇が、蒼夜の内股にちゅっと音をたてて跡をつける。
擦り続けて敏感になっている熱に近い刺激に、びくんと跳ねた蒼夜は思わず達してしまう。
痙攣と共に吐き出された白液は蒼夜の下肢と足立の顔を濡らした。
足立は付着したそれを指で掬い、蒼夜の口元に近付ける。

「舐めて」
「はい…」

素直に蒼夜は舌を伸ばし、足立の指を舐めた。
ちゅぷちゅぷと口に含みながら苦さに少し眉根を寄せる蒼夜に苦笑し、足立は口内で指をうごめかす。
舐め難いそれをしかし蒼夜は言い付けを必死で守ろうとする幼子の様に、一生懸命舐めた。
飲み込め無い唾液が顎を伝い流れるのがまた、酷く色っぽい。

「蒼夜くん…もう良いよ」
「ふぁ…」
「こっち、解そうか」
「あ……ああ…っ」

臀部に伸びた指が肉を割開き、ぬぐぐっと体内に埋められた。
いつもはぐちゃぐちゃに掻き混ぜられるのに、今日はゆっくり抜いてぐにぐにと中を擽る様に撫でられる。

「うー……」
「どうしたの?」
「も、もう…」
「もう、何?」
「ん…っ足立さん、の…挿れて…くださ…い」
「…すっかりやらしくなっちゃって……」
「足立さんが…仕込んだんじゃないですか……」
「うん…可哀相にね。こんな男に捕まって」

恥ずかしさからか涙目になる青年に優しく口づけた後、足立は指を引き抜いてひくつく場所に一気に自身を押し込んだ。
ズンッ、と突き上げられると共に蒼夜の肢体がのけ反る。

「ひ、くぅ…っ」
「は…中、すっごいひくついてるな…」
「う、うう…」
「体面座位にしよっか」
「あ…っあう…っ」

蒼夜を引っ張り起こして自分の上に座らせると、足を抱えて下から突き上げた。
浮いた反動で抜けた塊が、体重でまた体内に深く埋まり、強く良い所を突かれる。

「い…っあ、深、い…っ」
「好きでしょ?奥の方突かれるの」
「う、あ…っあ…っ」

きつく抱きしめて揺さ振れば、蒼夜は縋る様にして抱き着いてくる。

「ほら…頑張って腰振りなよ」
「う、うく…っん、んあ、は…っや…っやぁ…っ」
「そう…上手上手」

熱っぽく囁く足立が嬉しくて、蒼夜は必死で中の熱を擦る。
体積を増す塊が愛しくて、蒼夜は笑みながら足立の首筋に噛み付いた。
足立は不意打ちにびくりとしたが、お返しと蒼夜の首筋を噛む。

「く…ん…っあ…っも…駄目…っ俺ぇ…っ」
「ふ…っ僕も…く…っ」
「あ!あはあ…っうー…っ」

達した快感を追う様に直ぐに腹の中に一気に熱が広がる。
二人共、達したせいで力が抜け繋がったまま床に転がった。
暫く荒く呼吸を繰り返す。

「はぁ…はぁ…足立、さん…」
「ん…?」
「好き…です…ずっと…傍にいさせてください…」
「……うん」
「……足立さん、は…その…俺の事…んぅ…っ」

ずるるっと体内から足立が抜けて行く感触に蒼夜はぶるりと震える。
その内股をどろどろと白液が伝った。

「…ん?なんか言った?」
「………いえ」

何と無く避けられた気がして問い掛けを諦めた蒼夜は、シャワーを浴びようと立ち上がろうとする。
しかし、また不意に腕を引っ張られ、気が付けば背後から抱きしめられていた。

「…好きだよ。だから…ずっと、傍に…いろよ」
「………はい」

はい、ともう一度頷き蒼夜は涙を流す。
何度も拒まれても、何度も傷付けられても、蒼夜は伝え続けた。
そしてそれは、幾年もの月日を経て、漸く足立に伝わったのだ。
足立はひくっとしゃくり上げて泣く蒼夜をぎゅうっと抱きしめ、囁く。

「…有難う…ね」
「う…うー……っ」
「…いい大人が泣かないの」
「ひっく…だって…」
「うん…ごめんね」

愛してるよ。
飾らずに、ごまかさずに、告げられた言葉。
昔なら安っぽいと馬鹿にした言葉は、口にするのが酷く難しい。
だけれど、今なら言える。
蒼夜が与えてくれた言葉が、仕種が、表情が、気持ちが、本物の−愛だったから。
教えられたのだ、だから、言える。
これが、愛なんだと。

「愛してる」
「…もう一回」
「愛してる」
「…もう、一回」
「愛してるよ」
「……ひ…っく…」
「愛してるんだ」

愛してる。
足立が何度も何度、優しく囁くから、蒼夜は声を上げて泣いた。
遠回りして、擦れ違ってそれでも、あの日々は、描いた未来は、間違いじゃなかったのだ。
掴んだ未来はあの頃からの延長線にあって、それは決して無駄では無かった。
足立は泣き続ける青年を、もう離さないと誓う。
蒼夜が創ってくれた未来が今なら、今度は自分がこれからの未来を創りたい。
二人共に、朽ちるまで共に。
そんな未来を。



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依鈴さまへ
センスレス後足主


遠回りしたけれど漸く繋がった二人は、これからが本当のスタートなのだと思います。
傷ついて傷つけたからこそ、その絆は強固なものなのかなと。


この度はリク、有難うございました☆



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