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「花村ってさ、リーダーの好きな人、知ってる?」

テレビの中の探索で今日は陽介と千枝が留守番である日。
ぶらりと別行動で探索している途中、千枝が不意にそんな事を言い出した。
陽介はどきっとしながらも努めていつも通りの声色で、突然なんだよ、と千枝を見遣る。

「この間たまたまリーダーが告白されてるところ見ちゃってさ。でね、リーダー好きな奴がいるからって振ってたのね」
「あ、そ、そうなんか」
「でね、その子も相当可愛い子だったんだけど、好きな人ってどんな人なのって聞いたら”凄い可愛い奴”って、リーダー照れながら言ってたのよ!あの子より可愛い子って言ったら誰かなって気になってさぁ」
「可愛い奴……」

陽介は何だか酷い不安にかられた。
蒼夜と付き合っているのは、自分である。
しかし自分は男であるし、間違っても可愛い、の部類では無い。
なれば蒼夜の好きな奴、と言うのは自分では無いのでは無いだろうか。
付き合っていると思っていたのは実は自分だけで、蒼夜はそう思っていなかったのでは無いだろうか。

「…知らないな」
「そっかー花村でも知らないのかー」

千枝はうーんと悩んでいたが、陽介もまた深く悩む羽目になってしまった。


−−−…


「なぁ、蒼夜…」
「んー?」

帰り道。
ジュネスで買い物をしてくと言う蒼夜と共に陽介は暗い道のりを歩いていた。
その途中、そっと繋いでみた手もやはり振り払われる事も無くて、陽介は思い切って尋ねてみる。

「…俺の事、好きか?」
「は?な、何だよ突然…」
「好き?」
「……うん」
「1番?」
「………うん」

赤くなりながら俯く蒼夜は、控え目にこくりと頷く。
陽介は少し安堵しながら、不思議そうに見てくる蒼夜に、千枝との会話を話した。
すると不意に蒼夜が黙り込んで俯くから、また陽介は不安にかられて名前を呼び、その顔を覗き込む。
蒼夜は口元を手で押さえたが、しかしその目が−笑っていた。

「な、何…」
「ぶ…っくく…だ、駄目だ…あ、あはははは」

堪え切れなくなった蒼夜は盛大に笑い出し、陽介は何がなんだか解らずにきょとんとしてしまう。
蒼夜はひとしきり笑った後に浮かんだ涙を指で拭い、はぁ、と一息つくと今度は柔らかい笑みを浮かべる。

「感情を真っ直ぐに出して一喜一憂する陽介って、可愛いよな」
「………は?」
「そーゆー事で悩んじゃうとこも可愛いと思う」
「…ちょ…待て待て待て」

陽介は意外な言葉に思考がすこんと抜け、理解するまで時間がかかってしまう。
自分が、可愛い?

「…え、つ、つまり、お前が言った可愛い奴って…」
「好きな奴なんて陽介に決まってるだろ」
「俺が可愛いは…無いだろ…」
「陽介だって俺の事、可愛いって思ってくれるんだろ?」

一緒だよ、と言って蒼夜は陽介の手をぎゅっと握り返した。

「俺だって男なんだからな。好きな子は可愛いよ」
「…………無いわぁ」
「有るって」
「………てか悩み損じゃねぇか…」
「ま、そういう事だな」

からから笑う蒼夜をじと目で見遣った陽介は、何となく悔しくなって不意打ちで唇を重ねる。
そうすると蒼夜は赤くなりながら、しかし何処か嬉しそうに笑うから。
お前のが可愛すぎんだよ、と囁いてまた勢い任せに唇を重ねたのだった。






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