□文3
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「蒼夜…」

蒼夜を救出してから、一週間が過ぎた。
その間、蒼夜は意識を失ったまま目覚めずにいる。
俺は毎日蒼夜が入院している病院に通い今日あった出来事や、皆が心配している事を伝え続けていた。
しかし蒼夜は動かない。
俺の声は―届かない。

「……なぁ、蒼夜。俺、お前の事、好きだぜ?優しいとこも、臆病なとこも、強いとこも弱いとこも。…お前は?俺なんかじゃお前の弱い部分を支えられないのか?好きだって、言ってくれたくせに…っ」

まるで息をしていないかの様にぴくりとも動かない肢体に手を触れさせる。
その青白い顔をなぞり、首筋に噛み付いた。
歯を立てた皮膚がぷつりと破れ、浮かぶ赤。

「痛いなら、痛いって言えば良いんだ…っ辛いなら辛いって…っ幾ら助けてやりたくたって、拒まれちゃなんもしてやれないじゃんか…!」

真白いシーツをきつく握り絞める。
近くにいた筈だったのに、どうしてこんなに遠いのだろうか。

「なぁ…なんか言えよ…っ蒼夜…!」

叫びも虚しく、ただ蒼夜は静かに沈み続ける。
虚しさだけが心に蓄積されて、いた。

「……?」

しかし不意に何かの気配を感じて伏せていた顔を上げた。
するとそこには静かに揺れる青い炎が揺らめいていて、それがやがてゆっくりと像を結ぶ。

「そ…うや…?」

握ったシーツの下にある肢体が動いた訳では無い。
しかしベッドを挟んで向かい合う様に立つ姿は蒼夜そのままで。
俺は瞬時惑ったが、直ぐにそれの正体に気付く。
これは、シャドウだ。
抑圧された、心。

「…お前、消えて無かったのか」
「……呼んだから」
「……?」
「…お前が、呼んだ、から」
「……!」

ぽつりと呟くシャドウがじっとこちらを見る。
硝子の様な虚ろな瞳がしかし少しだけ熱を宿している様に見えて、俺はぎゅっと本体の手を握った。
温かい手を強く強く握り込む。

「…なぁ、どうしたら、良い?どうしたら、こいつは目覚める?」
「…そいつは…もう無意識レベルで俺を拒絶してる…だから…直接…」

中に来て。
シャドウが呟き、俺に向かって手を伸ばして来た。
その指は質量も無く額に降れ、突き抜ける。
痛みは無いがしかし確かに体内に何かが入り込む様な感覚があって、その瞬間、パソコンの電源を強制的に切ったみたいに視界がシャットアウトした。
眠くて眠くて仕方ない時みたいに思考が散乱して、がくりと体が崩れる。

「…俺じゃ駄目だから……多分、お前にしか…」

そんな無機質の中に悲しそうな色を滲ませる声を最後に、俺の意識はブラックアウトした。



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