□文3
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「ちくしょう…っ」

シャドウ達を全力で薙ぎ払いながら迷路の様なダンジョンをひた走る。
入り組んでいる癖に整然とした印象のそこは、作り手の心を反映しているのだと思うと何だかやるせなかった。


−−…


事の発端は蒼夜が偶然遭遇引ったくりを捕まえた所から始まった。
俺もその場にいて−と言うか共にジュネスに行く途中だった−蒼夜の鮮やかな捕物劇に、その時は単純に凄いと讃えた。
しかし、それがまずかった。
それで一躍有名になった蒼夜がメディアに取り上げられ、あろう事かマヨナカテレビに映ってしまったのだ。
もう覚醒してるし、大丈夫だろうと本人は強気だったのだが、しかしやはり危惧していた事態は起こってしまった。
次の雨の夜に映った番組には、蒼夜がはっきりと映し出され、何も言わずにダンジョンに吸い込まれて行ったのだ。

「花村っ飛ばしすぎ!」
「けどよ…っ」
「落ち着こう。まだ霧が出るまで時間はあるし」
「そうクマ!しかもセンセイは偉大な方クマよ。シャドウなんかに負けないクマ」
「……けどよ」

俺は上がって来た息を整えるのも煩わしくていらつきながら、汗や僅か滲む血を拭った。
しかし焦燥感までは拭え無くて苛立ちだけが募っていく。

「あいつのペルソナがシャドウになっちまってるんだとしたら、今あいつは丸腰って事だろ!?んな状態じゃあいつだって…っ」
「……!花村っ」
「え、わ…っ!」

突然視界がぶれて倒れそうになったが何とか踏み止まって振り返る。
そこにはシャドウが臨戦体制でこちらを見ていて、慌てて武器を構えた。

「馬鹿!周りちゃんと見ないと危ないっての!」
「ちょっと先手打たれただけだろうが…っ」
「もう、千枝も花村くんも喧嘩してないで集中してっ」

声が飛び交う合間にもシャドウの攻撃がじわじわこっちの体力を削ってくる。
確か以前に戦ったシャドウだから、弱点は風の筈だ。
俺は一撃必殺とスサノオを召喚してガルダインを放つ。
しかし巻き起こった疾風は急に角度を変えて自分へと返って来た。

「………っ」
「ヨースケ!大丈夫クマ!?」
「あ、ああ…」
「あの敵は確か雷弱点クマよー」
「ちっ、覚えてんなら先に言えよ」
「むむむ!ヨースケが言う前に勝手に突っ走ったんだクマ!」
「あんだと!?」
『もういい加減にしてぇー!!』

不意にりせの声が響いて、俺達はハッとする。
その声が悲痛に震えていた。

『先輩がいないと皆ばらばらだよぉ…こんな事してる間にも、先輩は戦ってるかも知れないんだよ?私達皆、先輩に助けられたんじゃん!今度は私達が先輩を助けてあげなきゃなのに、喧嘩してる場合じゃないでしょ…っ』
「りせ…」

馬鹿だ。
あいつは誰かを助ける時、いつだってちゃんと冷静に状況を見てた。
だからこそ俺達は皆、こうしていられるんだ。
なのに早く助けなきゃって焦りで、逆にあいつを危険にさらしてしまう所だった。
俺は自分の両頬を思いきり叩くと、里中と天城、りせ、それにクマにもごめんと謝る。
そうだ、こんな事をしている場合じゃない。
しっかりと状況を把握して、焦らず、確実に助け出すんだ。
今まであいつがそうして来た様に、今度は俺らが助ける。

「待ってろよ、相棒。必ず助けるからな」

呟いて前を見据える。
−しかし広がるダンジョンは俺達を拒む様に入り組み、その扉を固く閉ざしていた。



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