□文3
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登校中、学校に続く道でその姿を見かけて声をかけると、ちょうど良かったと簡単なラッピングが施された包みを渡された。
何かと問うと「チョコ」と躊躇いもせず簡潔な答えが返ってくる。
俺は思わず今日の日付を携帯に内蔵されてるカレンダーで確認し、確かに14日である事を認識した途端にやける顔を禁じ得なかった。
毎年なんやかんやそわそわする日ではあるのだが、付き合っている恋人に貰うのは初めてだったからである。
しかも普段から腕を振るっている蒼夜の、恐らく手作りのものである。
本当は抱きしめたい衝動にかられたのだが、一撃で沈められそうな重い拳が来るのは目に見えていたから「サンキュ、」と礼を言って鞄に収めた。
今日は良い気分で一日過ごせそうだ。

「……」

否、筈だった、が正しい。
登校した蒼夜は特捜隊の皆や部活関係の友人なんかにも同じものを配っていたのだ。
そんな「自分だけに」なんて勘違いを恥じる俺を知ってか知らずか蒼夜の態度は一日変わらず、結局その日は何事も無く学校で別れ帰宅する。
俺は風呂上がりにベッドに転がり、皆と同じものだと知りつつもそっと貰ったチョコの包みを開いた。
しかしそこには空箱と紙きれが一枚。
チョコレートなど影も形も無く、首を傾げながらも紙を取り出し二つ折りにされたそれを開いた。

「……!」

そこに書かれていた内容を見た瞬間、俺は慌てて上着を引っつかんで、濡れた髪もそのままに自転車で家を飛び出した。
急いで向かうは堂島家。
蒼夜の元へとぶっ飛ばし、ものの数十分で辿り着くとチャイムを数回連打する。

「…意外と早かったな」

そんな言葉と共に蒼夜が扉を開いて出迎えてくれる。
その顔には悪戯っぽい笑みがのっていた。
俺は息を切らして玄関に上がり込むと、引っつかんできたせいでよれた紙を眼前に翳す。

「そりゃ、こんなもん見たら、な…!」

そこには蒼夜の手書きの文字で”今夜は誰もいない”と簡素に一言書かれていたのだ。
俺はチョコの件で酷くお預けを喰らった様な気分だったものだから、蒼夜にタックルを喰らわせ、玄関に押し倒す。

「馬鹿、こ、んなとこで…ん…っ」
「仕方ねぇだろ…っすげぇームラムラしたんだよ…!」
「折角…お前にチョコ、作ってた…のに…あっ」

服の中に手を突っ込んで、胸をまさぐり、突起をきゅっと引っ張る。
びくっと首を竦める蒼夜に口づけながら、腰を押し付けて下肢を擦り合わせた。

「ん…っん…っんぷぁ…っや、揺すんな、馬鹿…っ」
「蒼夜…っ」
「うあ…っや…っ」

固くなって来るお互いのが擦れて、下着の中でぬめってくる。
蒼夜も何だかんだ言いながら気持ち良いのか腰を押し付けて抱き着いて来るから、俺は止まらずそのまま二人が達するまでしなやかな肢体を揺すぶった。

「あ…っんん…っ」
「う、ああ…っ」

びくびくとお互いに痙攣して精を吐き出す。
下着がびっしょりと濡れた感触は不快だったが、蒼夜が可愛い顔でほうけているから、胸が満たされてまた一つ口づけた。


――…


「わりぃな、下着借りちまって」
「たく。いきなり盛るなよな」
「そりゃ、あんなもん貰ったら堪らんだろうが」

二人ともシャワーを浴びてさっぱりした後、蒼夜を背後から抱きしめてまったりしながら、俺の為に作ったと言うトリュフを賞味する。
嗚呼、なんて至福な時間だろうか。

「美味い?」
「めちゃうまー」
「良かった」
「お前も、」
「俺は良い…ん…っ」

トリュフを摘み、蒼夜の口に指ごと入れて溶けるチョコを舌に塗り込み、弄ぶ。
蒼夜は唾液が落ちそうになるのを止める為にちゅうっと必死で指を吸って舐めてくるから、俺は意地悪く抜き差しした。
ぬぷぬぷと上あごを擦るとびくびくとして蒼夜が口を開く。
耐え切れず唇から流れる唾液を、俺は舌で舐めとり、唇をくっつけた。
思う存分甘い舌や口内を味わって唇を離すと、蒼夜が欲に濡れた目で俺を見る。

「へへ…エロい顔」
「…陽介が、させてんだろ」

馬鹿。
そんな甘い言葉を呟いて重ねてくる唇を逆に貪りながら、胸や下肢に手を伸ばし、直接触れて弄る。

「…あ…んん…っ」
「此処、気持ち良い?」
「い、い…よーすけの指…気持ち、良い…」
「…あー…今のやばいわー」
「……っ…?」

甘ったるい声が鼓膜を震わせ、余裕なんか直ぐに無くなってしまう。
チョコなんて目じゃ無いぐらい、その仕種が、言動が、胸を焼くのだ。
俺はその肢体を思う様貪りながら、やっぱり今年は最高のバレンタインだな、なんて酷く贅沢な事を思っていたのだった。





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