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クリスマスが恋人達のイベントになったのは一体何時からなのだろうか。
足立はそんな事を考えながら、汽車に乗り街まで遠出していた。
今日、足立は休みであり蒼夜も学校から直接堂島家へ行くと言う事で、チャンスだと出て来たのだ。
内緒でクリスマスプレゼントを買う為である。

「うーん…何が良いかなぁ…」

足立は元々は世間のイベントを重んじるタイプでは無い。
何と無く町の雰囲気でそういえばそんな日かと思う程度である。
独り身の成人男性なんて大概はそんなものだろうと思うし、別段支障も無い。
そして多分、蒼夜も世間のイベント毎は重視していないだろう。
でもそれは怠惰なだけの足立とは違い、小さい頃から習慣が無いだけなのだ。
以前誕生日を誰にも言わず、しかしひそかに両親からのただ一つの言葉を期待していた少年を思い出すと、胸が苦しくなる。
別に少年の両親を責めるつもりは無い。
自分が子供を持ったとして、ちゃんと育てられるかはまた別問題だからだ。
ただ、足立は余り多くを望まない蒼夜が大切であり、愛しいから、喜ぶ事は何でもしてやりたいと思うのだ。
しかし。

「恋人としてのプレゼントか…いや、蒼夜くんもまだ子供だから何か…うーん……」

取り敢えず入ったデパートに、もう2時間程いるが一向に何をあげるかが決まらない。
指輪は以前誕生日にあげてしまった。
恋人としての贈り物なら多分、最終的なものであり、それ以上のインパクトの物−別にそれを求められている訳では無いが−となると考えつかない。
そもそも高校生の男の子が貰って嬉しいものなど皆目見当がつかないのだ。

「うーん……あ」

しかし不意に通り掛かった店のショーケース。
きらりと光ったそれに足立は足を止めた。
小さく、しかし美しい色のピアスが所狭しと陳列されている。
中でも深い青色をした石が目につき食い入る様に見ていると、店員の女性がにこやかに声をかけてくる。

「プレゼントをお探しですか?」
「あ、はい…あのこれって…」
「ラピスラズリですね。水晶と並んで称される程力の強い石で、負のエネルギーをプラスにしてくれたり、幸福を招いてくれると言われています」

色の白い方なんかにはよく映える色ですよ。
そう言われて足立は蒼夜を思い浮かべる。
白い顔、首筋、グレーの髪から覗く耳にきらりと光る青。
彼の名前にもぴったりで、足立は微笑み、これにしようと頷く。

「これ、お願いします」
「はい、有難うございます。ではお包み致しますね」

会計を済ませ、有難うございましたと店員に見送られた足立は、綺麗に包装されたそれを大事に抱えながら帰路に着く。
多少値が張ったが、蒼夜の喜ぶ顔を思い浮かべれば酷く胸が満たされた。
その日が待ち遠しく思うのは、サンタを待っていた頃の様で、何だか笑えてしまう。
花の様な笑顔を思い描いて、足立は一人にやりとしてしまうのだった。


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